アンソロージー・ダービーと銘打ち、真新しい8名の作家の作品を読めた『覚醒するシスターフッド』の中で1番面白く感じた韓国SF作品の著者を1冊取り寄せてみた。
舞台も散り散りな8編を収録した短篇集。
韓国文芸の入り口は、ノーベル文学賞を受賞したハン・ガンや現代的な若手作家のSF『わたしたちが光の速さで進めないなら』からだったが、虚構性も主題性もあるし、特にジェンダーに関する話題作が強いのかなという印象。本作にもジェンダーやニュートラル等多くの性別的な要素、それらを含む多様は関連していく。
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『エディ、あるいはアシェリー』

「レオニー」
珍しい設定で、フィリピン出身の両親が出稼ぎでチリに来て生まれたレオニーの視点で描かれる。世界に散り散りになって暮らす家族たちが、五年に一度祖国へ帰省して「ここに集まれたことが普段の成果で成功だ」という様は、生きていく意味や労働の意味を内包する。日本では馴染みがない話だが、韓国も似たように出稼ぎの感覚があるのだろう、国に暮らしたいけれど内需の弱いフィリピンにおいて、海外への出稼ぎの当然と、そうした労働者が本国へ送金する金額の国内総生産の10%にも登る話が解説にあった。
表題作「エディ、あるいはアシュリー」
心の性別と体の性別の現代的なテーマモチーフと共に、百年の間は老いも死も進まない世界の後に動き出した世界に生きる彼ら、という二つのテーマを使いながらもどちらも消化不良で微妙。SF的なテーマと現代的なテーマ、いくらでも面白く書けた掛け合いが勿体無い。
「海馬と偏桃体」
個人的には一番微妙、眠くてあまり思い出せない。
「正常人」
歴史的な学生運動のブーム的な扇動や躍動、実家に恵まれた青年のその傾倒は道楽、一途に日々を暮らす社会人になった青年の吐露等、書きたい一定は感じるが上手くいっているとは感じず。中国的なテーマにも感じて、韓国でのこういうイメージはあまりないので意外ではあったか。
「木の追撃者 ドン・サパテロの冒険」
これも微妙。次の作品へも続く、木や植物の影を感じるのみ。
「へその唇、噛みつく歯」
付き合った男性が漏れなく暴力的になることに悩む主人公女性は、生まれからして幸福ではなかった身の上を語る。そして巡り合った夫と結婚するも、その後の顛末を描くが、満たされない欲望や不安、喪失や嘱望などの要素と共に、人間社会の底辺や弱者の立場に追いやられた彼女は世を捨てて自然や草木に逃避して行く様はハン・ガン『菜食主義者』にも通じる要素、人間社会からの逃避先は自然科学的な意味で草木が選ばれるのがトレンドもしくは必然の帰結なんだろうか? 若い女性性の安定と不安定を描いている気もするが、別にこれといった何かはないが、描写に力は少しずつ感じる。

「相続」一番良かった
創作教室に通う二十五歳と、四十九歳の女性、年かさの女性が病気を理由に所有している本を譲りたいからと二十五歳の女性に淡々と送り付けてくる設定は、相続を普遍的に思わせるし、単純に物質的な本とそれにまつわる文芸のモチーフとしても展開する。もう一人、二人が通うアカデミーの講師として登場する二十代女性の作家が語る作家という職業やそのスタートライン、或いは到達点と、その三人、或いはある二人が交差する部分のテーマとモチーフは悪くないし、バランスよく閉じる部分も印象的。親から子への生命や財産的な相続とは全く異なるが、友から友へ、恩師から弟子へ、ある意味のシスターフッドの中で受け継がれ、託されるものの普遍性を描く。
「メイゼル」
新婚間もなく地獄のような夜を過ごすようになった新婦は夫からの逃避行を夢見るうちに、ラプンツェルとドロシーの二人に幼い日の自分を思い出し、恐怖に支配されたままの私で弱腰になって振り返る自分が進む先の不憫な老婆の夢を見る。
短篇集ダービーやってみました
○『レオニー』
△『エディ、あるいはアシュリー』
×『海馬と偏桃体』
×『正常人』
×『木の追撃者 ドン・サパテロの冒険』
○『へその唇、噛みつく歯』
◎『相続』
◎『メイゼル』
なんて微妙なんだ、と途中まで思って読み進めて、「へその唇、噛みつく歯」で少し持ち直し、「相続」(〜2018)は面白く読んで、「メイゼル」(〜2019)は、そうだそうだ、この著者の作品を読むきっかけになった「未来は長く続く」(〜2020)は、SFの設定を上手くつなぎ合わせたパッチ―ク世の中に鮮烈さと創作的なバランス感覚が良かったのだと思いだすような、今回は童話とファンタジー性のそれを見せれくれた。「未来は長く続く」より成功しているとは言わないが、そこへの繋がりを読ませる著者の魅力の萌芽を感じるし、それが伸びた結果のあの作品は素晴らしかったのだな、有名作家と居並ぶアンソロジーでそれを張れる事を含めて、更に実感した。
以下、巻末解説にて。
著者のキム・ソンジュンは1975年生まれ。2008年に「わたしの椅子を返してください」(未翻訳)で中央新人文学賞を受賞して作家活動をスタートさせた。その後は2010年の第一回開催から三年連続で若い作家賞を受賞するという快挙を果たし、瞬く間に期待の作家として頭角を現した。デビューして10年となる2018年には、本書に収録されている「相続」で第六十三回現代文学賞を受賞。
~日本では雌犬のライカと女性のクローン人間とロボットのシスターフッドを描いた「火星の子」(斎藤真理子訳『韓国フェミニズム小説集 ヒョンナムオッパへ』所収、白水社2019年)、そして「火星の子」の続編として書きおろされた「未来は長く続く」(斎藤真理子訳、「文芸02020年秋号」所収、河出書房新社)が訳されているが、単著の紹介は今回が初となる。
本書は韓国で2020年に刊行された短篇集の全訳で、2014年から2019年にわたって発表された8編が収録されているそうで、「火星の子」が何年に執筆され、その続編らしい私が魅力的だと思った「未来は長く続く」が何年に執筆されたのかはわからないが、「相続」(〜2018)が良く、以降の「火星の子」(〜2019)「未来は長く続く」(〜2020)までの間に開眼があったのかなと思ったら納得した。
著者の魅力はそのパッチワーク性にあると感じるので、その創作的手腕や作風の開眼ともいえる。おそらくそれは単語やモチーフ性の強いSFとも相性がいいのだろうし、創作的なバランス感覚だとも思う。そこを瑞々しく鮮明にまで描いた「未来は長く続く」に続く「火星の子」を収録された『ヒョンナムオッパへ 韓国フェミニズム小説集』も買ってしまった。
ハン・ガンとアンソロジー・ダービー1着により、膨らんだ興味から次いで韓国文芸が2作続いたが、やはりジャンル小説の一定の限界と商業的成功には懐疑的ではあるものの、母国以外への翻訳出版の難易度、あるいはそれを難なくクリアしている恵まれた作家キム・チョヨプ(『わたちたちが光の速さで進めないなら』)と、それより20歳近く年上の今回キム・ソンジュンの作家的な軌跡を見れただけでも楽しかった。
やはり私は作家の成長性が好きだ。他国に翻訳出版される作家作品がまず稀有なので、その権利をまずは勝ち得た2人にはどんどん書いて最高打点を目指してもらいたい。
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