(The Founder)(2016)
後にマクドナルドの”創業者”として名をはせるレイ・クロップ(マイケル・キートン)はそのころまだミルクシェイクミキサーの訪問販売の営業マンをしていた。冴えているとはまだ言えない、ある時にミキサーを8台購入したいとあるハンバーガーレストランから注文が入り、依頼主の兄弟が始めたというショップを訪れて、その効率的で画期的なオペレーションシステムに感動し、レイ・クロップはフランチャイズによる事業拡大の計画を兄弟に持ちかける。その兄弟の名前はマクドナルド、その名を持つ経営権をのちにクロップに買収され、商標としては使えなくなるスタートの名前。売りたい商品と躍動できるビジネスにやっと出会えた50代で始まる躍進劇が、世界でもっとも有名な外食産業会社の誕生秘話を物語る。
無駄なメニューを排除し皿の代わりに紙でくるむ。ウェイトレスが車窓まで聞きに来て、それを届けるような状態から、注文から30秒で出す、客の行列、システム、商品のすばらしさで1940年代のドライブインブームに乗ることにした考え方。
「独創性があってこそ、最高の利益を生む」
厨房の効率とスピードのシステムを作ったのも、名前やモチーフとしての外観の発案も同様だと言えるし、マクドナルドの基礎となる商品的な魅力と利益率やを産んだのは間違いなく兄弟の仕事だった。本作はレイ・クロップによる自叙伝を原作としているが、その中では描かれていなかったと言われる兄弟との確執の側面をややクローズアップして描いている、その意味でドキュメンタリーのジャンルに属しているが、前半の兄弟の作り上げたシステムや作業効率のための試行錯誤の部分の虚構性は極めて高く、エンタメ映画としても素晴らしく見ごたえがあるものになっていて非常に魅力的。
そんな彼らが作り出したパターンを自分がフランチャイズ化して拡大させたい、と営業マンとして買って出るレイ・クロップによる事業拡大が進む過程から、徐々に雲行きがおかしくなるが、本作は基本的に映画としての魅力はそこまで高くない、前半は高い、では後半はどうか。
虚構創作とはどこまで作り上げるのか、という所に価値と魅力があると思うが、ここにドキュメンタリー映画や、大企業の創業者をモチーフに扱う虚構創作の難しさと面白みがある気がするし、その意味でも本作は二重三重の魅力に溢れた作品に感じうる。
それにしても、これだけの大企業の誕生秘話とそのお家騒動という魅力的かつキャッチ―なモチーフを扱ってこの程度か、と思うと、やはり微妙なので変奏が待たれる。
「どの街にも裁判所と協会があり、国旗と十字架を掲げ、一目でそれと分かるから人が集まる。美味しいハンバーガーだけでなく、家族や仲間と集い、食事をする場を象徴している。十字架と国旗とアーチだ、マクドナルドはアメリカの新しい教会になる」
クロップはマクドナルド兄弟よりも大きな夢を語り、会社を広める営業マンとして活躍する。価値を確信し、広めたいと真実商品価値と夢あればこそ営業マンは全力で輝く。
知り合いの富裕層を口説き、融資を取り付けていくが、彼らはビジネスに本気にならないので信用ならず、使えないとみなして中間層の夫婦労働者に目をつける。その過程で、これは飲食業ではなく不動産業であると気づく部分も、現代から観てもビジネスの面白みが詰まっているように思うし、マクドナルドの創設メンバーとして有名な何人かが端役で登場したりしても基本的に本作はクロップの独り舞台となっているが、その彼を魅力的に描かないようにすら感じる、その部分がドキュメンタリー映画であることと、脚本が採用している作品性なのかなと思うと、多少惜しい。
融資集めやコストカットとしての科学効率やグレー拡大への執念、それまでどんな商品に手を変え品を変えて売り込んできて、初めて当たったビジネス、楽しくて仕方がなかっただろうと思う、自分の仕事をやっと見つけたクロップは、ヒーローとしての純粋さでも手段より結果を求めるダークヒーローとしても、どちらにせよ魅力的に描き上げることが可能であったが、どちらに寄せても作り上げず、中盤以降本作は虚構性や映像作品であることを忘れてしまったかのような実写調で淡々と終わる。
本作は、レイ・クロップを悪役に描くことに躊躇がないので、不満を持っていたが夫を支えていた妻に離婚を言い渡すことにも戸惑いがないし、いかがわしいビジネス手法としてのマジックパウダーを勧めてきた美人ピアニストの人妻と後に再婚している。マクドナルドの名とアイデアの生みの親である兄弟とは訴訟で争い、片方は病で倒れる。
けれど生真面目で実直だが冒険心はない兄弟だけでは今日のビジネス的な大展開はなかった、と思わせるだけの強さで突き進んだレイ・クロップの功績は間違いなく、発端はただあのハンバーガー・ビジネスを成功させたかった、その広さや速さの違いが、徐々に加速度的に双方の価値観の違いを鮮明にした。アイデアを世に浸透させていく実行力、そのマルチがなければマクドナルドは作り上げられなかった。そしてビジネスは早さ、そして力強さ。それを体現するようなクロップの行動力でマクドナルドの快進撃は続きその拡大についていけなくなった兄弟との溝を、クロップは金銭と契約で片を付ける。
この作品のドキュメンタリー性では、自叙伝や公式で語る物語とは別の側面を用意して光を当てていた点にあり、前半の兄弟の作業性や効率性を生み出し、レイが感動した「マクドナルドというパッケージ性」「効率システムの商品性」の説明の部分なんかは物凄く虚構創作的に行われていて映像作品だなと感じるし、”マクドナルド奪われる”部分、”あらゆるコストカット”の明文で化学的なものを取り入れていく闇要素などもキラーコンテンツとして入れてくるが、そうしたビジネス手腕や勝ち上がった成果をこそ第一とするアメリカの資本主義観が思われるし、ビジネスの上で彼は何も間違ったことはやっていないのかもしれず、それにより今日の大企業があり、アイデアの生みの親は別におり、あらゆる角度と要素を詰めたとしても、順調な軌道に乗せて企業を成功に乗せた手腕者は誰か、そのビジネスの本質的な実行者は誰か、という部分は明確化されている。
創業者として名乗りたい欲や、そういう欲が世界を変えて、実行していく本質と、けれどもそのビジネスマンも、自分が売りたい商品が見つからなければ生きないこと、彼は兄弟の生み出した商品アイデアに惚れて、これで勝負したいと確信した。
彼はこれを自分の仕事だと思いたかった、その思いに溢れ、本人さえもそう思い込めた二時間が、一人のやりがいと夢が世界の外食産業を塗り替えた、その一瞬の二時間でもある。
自分の信じた色で世界を塗り替えることが出来た幸せな黄色と赤の二時間、ともいえる。
重いテーマやメッセージを扱えば扱うほど、創作的な手際にはバランス感覚やセンスが問われるし、軽薄な扱い方は許されないと分かりながらも、どれ程の塩梅で作り上げるか、は実力であり出来栄えそのものである、このあたりのことは「存在のない子供たち」でもふれたように、テーマやメッセージ性があればこそどのような虚構創作にするのか、或いは、テーマやメッセージ性があるからこそ虚構創作を選んだ、であるならばどんな達成を目指すのかの価値の話になってくる。私はこれを非常に強く評価したい。
「存在のない子供たち」「コーダ あいのうた」で触れたように、テーマや伝えたいことや作り上げたいことがあるからこそ、どのような作品にするのか、表現に虚構創作を選んだのだからこそ、魅力的に作り上げることこそが、テーマモチーフへの責任感である、という価値観が私には一定強すぎる。
ドキュメンタリーとフィクションでは目指す価値や魅力が変わってくるはずで、前者が目指すところの魅力が私にはまだ少しよくわからない。映画なら作り上げろよと思ってしまう。
それを観客も企業もファンもわかってくれるはず、という性善説や、虚構創作に許される創作性とエンタメ性、その信頼からの積極性が本作には足りない。もっと厚顔になっても良かったと思う、今のままでは後年も観らる作品にはなっていない、それでは意味がないものであるテーマとモチーフの自負があるなら、製作側は作り上げる、それをレビュアーは語り継ぐ、そして消費者がそれを鑑賞する。虚構創作の価値はそのあたりにある、つまり本作は製作者による作り上げの部分が少しだけ不足している。
おそらく本作は、自叙伝を採用したドキュメンタリー映画の体を持った少々の告発であり、隠蔽された創業者としての兄弟の存在や企業が収益率を上げるために行った方法論などを挙げながら、その成功の手法性を問うて世に出すために虚構作品として創作されたのだと思うが、各方面への防御策として創作的に作り上げる熱意がむしろ抑えられ、作り上げられていないことに最大の要因がある。
発案者の兄弟がいる点で非ファウンダー的な要素のプロット展開は盛り込んであるし、基礎やアイデアは兄弟のものであり、それを展開させた後に買い上げたのがクロックである、とする展開を世に出す形をしている。効率のためのマジックパウダーや、離婚と再婚や不倫の可能性についても触れており、告発的な雰囲気は目配せされている。声高ではない告発とエンタメ過ぎない中盤以降は、その真摯さからくるものではないかと思うし、兄弟の発案部分に価値を見出したが故の前半の魅力的な虚構創作であるとすれば、クロップを魅力的なダークヒーローにすら描き上げなかった部分に本作の製作的意図が見えるし、そのテーマモチーフを魅力的に思わなかった創作上の本質が見える気がする。ビジネスマンも自分の商品に確信したいが、創作者も自分のテーマモチーフに魅力を感じて制作したい、魅力を感じない商品や着眼に注力することはなかなか難しい。
ビジネスとしての展開や、合理的な契約展開がある以上、米国ビジネス法律的には正しい、けれども、という問題提起をあくまでさりげないセンスで、公式やファンに攻撃されない絶妙な線上で、虚構創作として流通させながら達成するということであればある程度成功。
問いたいのか、称えたいのか、世界的企業の”創業者”をどのように作り上げたいかの熱意よりは、観客に問うフラットな立場を取り過ぎたがゆえにどっちつかずになっており、基本的に作品は作り上げの後に残した余地でも観客は十分個人の判断や感想を持つので、そこの信頼感が足らず、作り上げることを忘れた本分の部分が浮き彫りになった作品かなと思う。
ところで、同じミルクシェイク作品として作り上げられた「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」は作り上げることの美学を知っているし、創作の魅力や色気とはそういう所であり、その上さらにユーモアを施す凄みを改めて感じる。真摯や告発の真面目さはもちろん重要ではあるのだけれど、虚構創作における成功や、それが波及する強さと波及していく価値の本質は真面目さとは異なる部分にあり、それが本作の兄弟の発案とビジネス的なクロップの成功と拡大の違いにも思えて、発案者の魅力や価値を謳う作品であるなら虚構創作の魅力や価値を信じて作り上げても良かったのではないか、自分の本分に尽くせ、と思うに終わる。これだけの人物を主人公に据えたなら、その問題提起の以前に、作り上げることに尽くせない時点で創作としては負けに感じる。
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