G-40MCWJEVZR 2024年の人気50記事を一挙公開!社会人が読書生活をリスタート - おひさまの図書館
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2024年の人気50記事を一挙公開!社会人が読書生活をリスタート

まとめ

 読書ブログ開設から1周年!
 設置してある人気ランキングは1年で更新されるので、周年のタイミングで1年間で書いた90記事中、閲覧人気上位50記事を振り返ります。
 この記事を読めば私が1年間で触れてきた小説と映画の良いとこ取りができます。

 2月に正社員雇用から卒業、働いているときは好きだったことも忘れていた読書生活が再燃。
 2.3.4.5月は個人的偏愛作家さんや知ってる海外作家に回帰しつつ、現代国内小説を書かれている初見の作家さんを漁る、6.7.8月の映画鑑賞での雨宿り、9月からの読書再開と複数作品での読み方、ノーベル文学賞と韓国フェミニズム、残雪を挟んで、12月からはやはり好きだし広がりがあると気づいて世界文学旅行の始まりとラテンアメリカ文学、アメリカン・サイコと近代アメリカ、現代と日常に被せるフィクション。
 社会人生活送る10年ほど読書や映画からはほとんど離れていたので、回帰する時間的余裕を得てからの紆余曲折が結果的にそのまま物語的になるわけだから虚構的。1年間を通して結局私は海外文学が好きだし、長編が好きだし、現代商業的な文芸も他創作も応援しているし、自分がフィクションに求めるものも少しずつ分かり始めました。

 思い出す記事、思い出す読書体験、ここからまた始まる読書経験。私は私の言葉を探して、誰かは自分の読みたい文章を見つけて、いつの間にか読んでいる今が私と誰かの人生になりますように。

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小説ランキング
Contents
  1. 2024年総ざらい
  2. いつもいつも長い記事、お疲れさまでした!

2024年総ざらい

1位「黄金列車」佐藤亜紀 174Views 

 6~8月の映画中断を区切りに、初期と再開後とで文芸作品記事のイメージが異なるのですが、佐藤亜紀さんのこの作品は、ブログを初めて間もない時期に作者様からリポストを頂くというX媒体ならではの経験をした奇跡的な作品として、初期記事の中でも絶えず人気記事として上位に君臨し続けていました。どんな文章も対象への感動や感激が集中力となって文章の密度や筆致を生む。対象への緊張感もあるので、たった1年ではありますが昔の記事は数か月前でも文章が恥ずかしいなと感じそたりするのですが、佐藤亜紀作品について書いた文章は自分でも結構好きで、がんばってるし好きで書いているんだなというのを感じます。
 閉塞感や喪失感によるモノクロ、それ自体がテーマモチーフとして覆う作品であることも手伝って、読みすい作品とは決して言えませんが、在りし日の妻や親友との思い出の鮮やかさと質感が、現在の日々と終りのまだ見えない自分の人生にかぶさる壮年男性の感慨と交わる、詩情的質感を持った作品。
 どんな人のどんな瞬間に適した読書体験になるかは難しく、その意味でお勧めはしづらいのですが、この作家にしか持ちえない繊細さと技巧を感じる作品は、ぜひ一度はご賞味下さいませ。

「黄金列車」佐藤亜紀
佐藤亜紀さんは私にとってだいぶ特別な作家さんなので、今回はだいぶ長いです。今月頭に読売文学賞を受賞された最新作「喜べ、幸いなる魂よ」(2022)が先月1/23に文庫化と知り、ポチりました!

2位「コンビニ人間」村田紗耶香 173view

 芥川賞受賞作でもあり、題名もキャッチ―ですし手に取り易さもあるのか、なんなのか、村田紗耶香さんのこちらも初期から絶えず人気作品として、1位の黄金列車と常にデッドヒートして年間を走り切りました。読書をせずにいた10年の間に本作の題名や芥川賞受賞などで作者の名前も知っていたので、読書を再開して現代国内作家の中で数人リストアップしてすぐに読み面白かったのが本作。
 同じ時期に今村夏子や宇佐見りんなど、発達障害の主人公を扱った作品が続き、現代国内の純文学作品の主人公は発達障害でなければならないのか、受けないのか、芥川賞が獲れないのか、取れなければそれ系作家は食べていけないのか、だから書くのか、或いは発達障害をモチーフに据えないと日本文学はもう日本文学っぽく書けないのか、何なのか、と少し考えてしまった。
 しかし本作は、そうしたモチーフを上手く使いながらも、現代的なジェンダーや個々性をコミカルにも描き、会話や群像を面白く読ませる工夫や心地を忘れていないし、或いは自然と生み出せる筆致もあり、深刻に書かずとも意味を描き出せる実力を感じた。
 積んでしまっている、たしか映画化が決まった「消滅世界」や、Xでもたまに目にする「生命式」など、純文系の作家であるのに多作だし知名度や一定の支持購買層を持つ作者は、それだけで稀有だし高価値なのだと思う。

「コンビニ人間」村田沙耶香
主人公は36歳、独身、女性、コンビニでアルバイトをしている、その歴18年。 「推し、燃ゆ」「星の子」に続いて発達障害気味の主人公がまた一人。読書再開後手に取った5冊中3冊に出てくるとは現代の小説の主人公は発達障害が流行りなのかしら、と思って...

3位「派遣社員あすみの家計簿」青木裕子 171view

 おそらく人気記事ランキング1位が佐藤亜紀なブログも珍しいと思うが、次点がコンビニ人間、そして3位にこの作品が来るブログは間違いなく私のブログだけだろうし、本棚を見ればその人が分かるとすれば、この記事ラインナップはとても個性的だし、何が推察出来るのかも興味深い。
 私は漫画から入った作品。知り合いのkindle出版に際して初めてレビューを書き、その中で引用した作品でもあり、ブログを始めてから小説版を読んだ。
 面食いの主人公はイケメンバーテンダーから結婚詐欺にあい、気づいた時には貯金残高も乏しく、寿退社で丸の内正社員勤務も手放し、しっかり者の友人に自炊を勧められるところから本作は始まる。節約生活や涙ぐましい収支感覚の日々があった人ならだれでも共感できる微笑ましいエピソードで、可愛い女の子の頑張りを見守ることが温かい気持ちにさせてくれる作品。真面目に働く、真面目に家計簿をつけられる人は強いけど、それを楽しめる人はもっと強い。

「派遣社員あすみの家計簿」青木祐子
人生初書評に引用させて頂いた本作、やっと原作小説読みました。結婚詐欺により口座残高が427円になった主人公が、友人の助言に従い、自炊や節約、日雇いバイトや派遣労働に勤しむ日々。 ガツガツ働く、コツコツ貯める、いつもここから始められる人生の豊かさと個人の力強さの清々しさが私は好きですし、本作には節約生活を彩る可愛らしさがあるのも好み。 楽しく読めます。

4位「クララとお日さま」カズオ・イシグロ 168view

 20歳前後で『日の名残り』を読んで以来のカズオ・イシグロ作品。『わたしを離さないで』よりも先に私が本作を読んだのは、私のネット上の名前がタイトルに入っているからというだけのことで、基本的に私はカズオ・イシグロに良いイメージがなかったので、それがなければ読むことはなかったか、遅れただろうから、それは幸運だった。
 本作の更新を告知した時、ノーベル文学賞を獲った有名な作家だし、作品も結構面白かったし、現存の比較的新しい作家だし、これはブログ記事も読まれるだろうな!と期待していた。結果は散々で、カズオ・イシグロが知られていないし読まれていないのだとしたら、読書っていったいどうなっているのだろう、とクラクラしたのをはっきり覚えていて、ショックだった。『わたしを離さないで』は日本ではドラマ化もされて有名だし、私は好きではないが、世界的にも商業的にも読まれるノーベル文学賞作家が読まれていないって、なにも読まれていないのではないか、と。(このあたりは私のフォロワー層との関係もあるのでここでは本質的なこととは関連しない)
 その後WEB検索から少しずつ本記事が読まれて、一般的に『わたしを離さないで』よりも知名度の低いだろうこの作品がなぜ外から読まれるのかを考え、”海外文芸を扱うブログが少ないのではないか””多数扱われる『わたしを離さないで』よりもニッチな『クララとお日さま』の存在価値””それにしても対外的にはカズオ・イシグロは強い”などなど、ブログ運営をする上での検索流入という外側からの読まれ方の考察と、そもそもその外側からの読まれ方が弱い私の内側から読まれる強さとは何か、等まで考えるきっかけになった作品。
 あんなに読まれていなかった位置から、徐々に読まれて4位にまで登るとは1番の出世記事、ダークホースでした。
 『わたしを離さないで』と共に、子供とSF的要素を扱わせたら上手い作家、と私の印象的烙印を誘う作品。本作も映画化されるそうだし、そのように現代現存のノーベル文学賞作家が扱われ、売られ、読まれること自体が稀有な時代に、やはりそれもまた高価値だと思わざるを得ず。個人的には好きな作家ではないけれど、現代を語るうえでこれ以上の作家が他にいればいいなと思うくらいには重さを持つ。技巧的にもテーマ的にもそこまでどうという作家ではない気がするし、そうした印象的で表層的なまろやかさが英国的なまろやかさというか、しかしその表面上の品の下のガツガツした下心や野心みたいなものがこの作家の真骨頂で、『日の名残り』の隠しきれない気持ち悪さや『わたしを離さないで』に感じる上手さと下手さにも通じるものがある。『クララとお日さま』はその意味でその気持ち悪さや下品さが弱く、明るさや愛おしさが前面にあるから、まだ好きに感じるのかもしれない。

「クララとお日さま」カズオ・イシグロ
 人工親友であるクララは14歳の少女ジョジーに買われて、彼女のAF(artificial friend?)になってからの大きく小さな冒険と、ジョジーの長く短い10代を描いた作品。  ノーベル文学賞受賞作家であり、「わたしを離さないで」の作者

5位「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ 156view

 一つ上で書きすぎたのでここはあまり書くことがない気がするし、くどくなりすぎる。
 けれどこの作品は傑作、長いけれどとても面白いし、途中はとてもつまらないし、特にネタバレも何も関係なく、今後もスタンダードに読まれる一冊に数えられる文学史的な作品になるといい。少なくとも現代文学的な要素は備えているし、商業的にも作家的にも相応以上をクリアしている以上、やはりカズオ・イシグロは良い作家だし稀有な作家だろう。社会的な所までとどかない題材やテーマ性がやはり好きではないし、狙い過ぎな部分、でも扱えていない部分、そこを上品と受け取らせる部分、軽やかな丸みや書きすぎない部分、等、作風だとしてもやはり好みではない。
 視点の問題にしても、文芸的な形式で数えるなら重要になってくるだろうし、作者の一貫した手法なので付け焼刃ではないにしろ、個人的にはその部分もそこまで渾身には感じられない。それにしても私は何作も読んでいるわけではないので、村上春樹同様、もっと読んでからこの作家を語れ、という考えも響くのだが、やはりどうにも何作も読み進める気が増さない。でもいつかはまた読まなくてはならない、そういう作家。
 青春とノーフォーク、愛しい赤ちゃんや初恋と親友、寮生活やお気に入りの先生に学生時代のカーストや息苦しさ。読みやすさと親しみやすさに振り切った全面に忍ばせるミステリアスで不気味な要素で押し切る、ある意味力業で、何も隠さない描き方、圧巻だと思う。
 未読の方はぜひ。途中までずっとつまらないですが、読み終わったら凄いものを読んだなと思うし、思わなかったら近現代の小説であなたが読むものは他にないかもしれない。

「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ
ブッカー賞・ノーベル賞受賞作家の代表作、そして傑作なんでしょう、私も感動しました。しかし非常に複雑。これを大声で素晴らしいと言える人、すごいな純粋に。それほど退屈で、完成度が高く、疑問符が残る作品。ある意味でこのつまらなさは日本の純文学的なことなのかも?

6位 文学的迷子たちへ 151view

 はじめましての記事であり、本質的にはレビュー記事ではないのでランキング集計からも本記事からも抜粋しようか常に悩んでいるカテゴリー。けれど本ブログの意図や、私の読書感や、読書体験にまつわる経緯などが分かり易いかなと思い放置。
 働き始める前までに読んでいた頃の財産で走り始めたブログ初期は、佐藤亜紀や小川洋子、皆川博子やバルガス・リョサなど馴染み深い作家名ばかりが目についていた。それだけ、新しい作家を知ること、新しい作家を読み始めることなどの、視野的狭さや新規開拓の難しさも感じる。
 私の学生時代や、小説をただ読んでいた時期の穏やかさや間延びの仕方、そして社会人として働き始めて読まなかった時期を経て、読むようになった現在が1年経過して、自分にとって文芸を読むこと、文学とは何か、現代小説の在り方や行き方、それらを迷子的に考えてあまり進めていないのが現状ではあるが、かつて好きだった作家をまじめに捉えて読むこと、その緊張感、そしてそこからそんな作家ですらあまり読まれず、私のブログをきっかけに知る、読むが始まることすらある現代と現実を感じた。
 また読むことが出来た、書いたものが読まれ、読まれることでまた読むことが始まることを知った。微弱ながら、この1年、良い経験をしました。

文学的迷子たちへ
文章を読みたいし、できればそれは夢のようなフィクションだと素敵だ。 一人でも多くの文学的迷子が減り、一冊でも多くの本が読まれ、何より私がその孤独から救われますように。

7位「傲慢と善良」辻村深月 130view

 非常に複雑。個人的には好きではない作品。
 商業性にしても、テーマモチーフは申し分ないし、先日読書仲間の方と現代売れ筋商品の装丁の話から本作を思い出したが、本作の文庫版も絵画調のイラストでキャッチ―だし、可愛らしい女性を大きく据えて、売れやすいお膳立てがされていることも感じる。現代女性の一番のテーマである婚活、そしてミステリー要素、とたたみかける本作の要約は、確かに売れ筋、売れないはずがない、でも誰も書かなかった、それを書いた作者はあっぱれ、素晴らしい。それは間違いないが、個人的にこれが辻村作品で代表作だし一番売れているからと言われると複雑、他に小説を読んでいない人にこれが一番胸に刺さった小説だとか言われるのも複雑。
 生まれたてのひよこの胸に刺さる作品、婚活女性の孤独に寄り添う作品、ヒット―メーカー的な作品、なんといっていいかわからない、私は全然好きではないし評価もしない。

「傲慢と善良」辻村深月
発売から2年近く経過してオリコン文庫ランキング20位、周りは勿論今年発売の文庫たち。 週間4,599部売れてるんだから凄い。 9月に映画上映も決まっており、また売れるでしょうね。

8位 おひさまの”梅雨休み”始めました 127view

 辻村深月の『傲慢と善良』と併せて読んだジェーン・オースティンの『高慢と偏見』、岩波文庫の上下巻でつまずいた。上巻は台詞ばかり、下巻は描写ばかりで読ませるも、基本的には古い時代の女性の世界や興味の狭さを感じさせる意味ではモチーフだったけれど、それ自体が読書的魅力に感じ得ず(オースティンの褒め方として、目が届く範囲の狭さがあれば小説は書ける的な逸話が残っているが、書ける書けないの話でも書けた小話の話でもなく、読んで面白いとは何なのかは課題)、辛く、名高い19世紀の女流作家の作品が面白く読めないというのは私と小説は合わないのかもしれないと絶望した頃、動画サブスクを通じて映画を観始めた。
 小説と共に、働き始めて観られなくなったが、映画も割と好きだった。商業と創作的作為、そしてルッキズムやチーム創作の結晶であること、その映像作品。
 月額サブスクの見放題なので、観なければ損と1日2本見たりして、ブログも一定期間毎日更新したりした、時期が6月だったので、文芸ブログをしばらくお休みし、映画ブログになりますと”梅雨入り”を宣言。3か月ほど続いた。
 小説への不安や不信というのはたまに起きる、その逃避先が映像作品でありつつ虚構創作であり続けたのは自分らしいし、集中的に見た後パタッと見なくなるのも自分らしいなと感じる。セミリタイア生活も含めればさらに、大人の夏休みを何度も楽しむ、人生をそのように飽きずに楽しく続けることは、個人的な新陳代謝の代表例になっている気がする。

おひさまの”梅雨休み”はじめました
映画記事は【映画倉庫】カテゴリにあります。

9位「神さまを待っている」畑野智美  108view

 著者のデビュー作は10年以上前に読んでいて、特にこれという印象はなかったが、ブログ開始から読書を再開させて、現代的な作家の作品も何冊か読もうとしているときにふと目に着いただけだったが、本作「神さまを待っている」が当たりだったので、続けて合計4冊読むことになった。この作品が一番面白かったし現代性もあるし、テーマとしてもフィクションとしても一番形になっている。
 26歳の派遣社員の女性があれよあれよと転がって漫画喫茶で寝泊まりし、下層へ下層へと転がっていく話。ジェンダー色が強いのが良い。題名も良いし、主人公の現実的に可哀相な感じが、著者独特の甘えや甘さみたいなものと距離が取れていて読みやすい。
 20代女性の貧困、過激すぎず、書きすぎず、良い塩梅で作られていると思う。

「神さまを待っている」畑野智美
派遣社員から失業保険期間のハローワーク通い、漫画喫茶に寝泊まりして軽度のパパ活を始めて日雇い労働には戻れず、なんとなく面接に行けず、なんとなく働く気になれず、なんとなく死にたくなる…転がりに転がる二十六歳の女性を主人公に、ふんわりと現代的な女性のある1年弱を題材にした作品、そこにしっかり絶望と希望を見ました。

10位「BUTTER」は「ナイルパーチの女子会」より優れた小説なのか?社会派小説の意義 柚木麻子

 柚木麻子の『BUTTER』といえば結構有名なタイトルだと思うのだが、一般的にはどうだろう?
 映像化はされていない、けれどいつされてもおかしくないだろう、あとはモチーフの犯罪者の扱いくらいか。作中でも主人公が留置所の被告人に洗脳された云々、敬服敬愛云々等が出てくるし、賛美も悪態も難しいのが犯罪モチーフだとは思うが、それだけに選んでからは緊張感や責任感が出てくるものだと思うが、それを扱って謎な出来栄えと軽さの小説をよくもま書けたなな、謎だ、というのが個人的感想。
 バターに関する料理の描写や、主人公の親友である掃除得意の主婦の掃除による人生改革的な部分だったり、本作の中核的なものだともテーマ的なものだとも感じない部分は面白味もあり、そこを書き上げられたなら違う焦点になったのになとは思うが、それでは文学性や社会性は皆無だしな。
 前評の高さとこのモチーフを扱い社会派と銘打ってこの出来で驚いたので、他にも何冊か読んでみようと『ナイルパーチの女子会』『さらさら流れる』『マジカル・グランマ』と続いた。
 個人的には『ナイルパーチの女子会』が一番面白かった。二人の女性主人公を据えてバランスが取れているし、主婦ブロガー側の成長譚や、東京に生まれて育った一人っ子女子がこじれた場合にどのようになる可能性があるのか、という一つの寂しさとわびしさの失敗例を見た気がした肉食魚側も面白かった。
 格差がある主人公を据えて、その視点の違いやテーマモチーフ感を展開するのが得意な作者は、けれど鋭いとも豊かとも賢しいとも思えない底の浅さが個人的には刺さらず、アンソロジー『覚醒するシスターフッド』に並んだ作品も面白くなかったので、印象は下がっている。現代で純文でもエンタメでもない中間作風の女性作家の中では、目立った人なんだろうなという印象。短篇集か何かで去年の直木賞候補作に入っていた気がする、またいつか読もうとは思う。こういう作家が伸びてくれないと始まらない。

「BUTTER」は「ナイルパーチの女子会」より優れた小説なのか? 社会派小説の意義と書ける範囲。柚木麻子①
>これはいったい何を面白がればよい小説なのか? >これを社会派長編小説とは、お前の社会どんだけ狭いんだよ >ナイルパーチで獲れないとなるとやはり直木賞は信用ならないかなと思ってしまう ☑️上げられた期待値 ☑️社会派小説という不適切な煽り ☑️小説家が書くべき自分の範囲 ☑️私の読書が全く現代的ではない点について

11位「喜べ、幸いなる魂よ」佐藤亜紀

 1位『黄金列車』と同作者による作品が11位。10位に入れたら面白い密度だった。
 個人的推し作家であることは恐らく文章を読んでいれば分かると思うので、その圧や熱もあり、記事も読まれたのかと思うと冥利という感じもする。お読みいただきありがとうございます。
 けれどこの作品、佐藤亜紀らしからぬのです、読みやすいのです、大円団なのです、異常事態です。
 『黄金列車』が中盤に差し掛かった人生において失くしてきたものを背負った男の話であるとすれば、それは想像通りに冷たい物語だったが、本作はある身勝手な女性に振り回されてあげることの出来る温かさと真面目さを持った男性を視点人物にしているだけあって、本質的に温かい言動が多く目につき、そして文章も作者の負でも温かい。人の知性や理性にも温度を感じる、というようなストレートな小説を佐藤亜紀が書くことに一番驚いたのは愛読者たちだろう。この驚きと喜び、そして作風やモチーフテーマをここまで変えても、変わることのない著者の文章や作為上の品や狙い、人々の奥に隠された温かさ、知性、人生。佐藤亜紀作品で牧歌性を感じるとは10年前の『ミノタウロス』で激震が走った自分に教えてあげたい。ぜひ読み比べてください、これが同じ作者によるものだなんて驚嘆。

「喜べ、幸いなる魂よ」佐藤亜紀
当ブログでも1.2を争う人気ページの作者様の2冊目。予備知識なくても誰もが楽しめる、従来の著者の作品には絶対言えない感想を読み返していて自分が1番驚きました。重さと暗さの「黄金列車」に対し、軽さと明るさの本作、著者の幅と力強さの豊かさをぜひ味わってもらいたい。

12位「空飛ぶ広報室」有川浩

 正直この作品は、私が普段読むものとも普段書いて来たものともジャンルが違う感じがするので、個人的にもランキングの中に見つけると違和感があるが、原作小説を読むきっかけになったのは映像化されたドラマ版であり、総合的な創作や芸能にまたがる商業的な成功と呼応が面白かった。
 正直言うと、ドラマ版を見てほしい。新垣結衣が可愛いです、綾野剛が格好いいです、働くって、恋をするって、いいなあと思える、純粋に良いドラマ。そして原作をたたき台にさらに魅力的な映像作品に繰り上げたドラマチームスタッフに拍手がしたくなる。震災の扱い方、ブルーインパルスの逸話などなどの扱い方も『傲慢と善良』とは技量が全く違うなと思います。
 著者の他の作品を読む気も予定もありませんが、このタイトルは好きで記憶しています。

「空飛ぶ広報室」有川浩
新垣結衣・綾野剛のドラマ版も非常に魅力的で、原作小説が航空自衛隊やその広報をピックアップしたように、その映像作品化たるドラマ版は更に原作を昇華させており、併せて楽しんで生まれる相乗効果が完全に成功した作品

13位 文芸難民の社会人に告ぐ

 働きながら読書が楽しめない理由、って結構あると思うのですが。
 仕事の方が重要、気楽に思考無しで楽しみたい、無料で受動の動画の方が楽、読書するなら小説以外。などなど。読みたいと思える作品を知ること、読んでよかったと思える作品があること、そこまでの途方もない距離と偶然を考えたりはします。
 体調を崩している間は本なんて読めないし、激務に追われている時期に本なんて読めないし、お金を増やすことの方が楽しいし先決、大事な誰かと過ごす時間の方が大切、一人で本を読む時間、ってみんな実は後回しに詩がちな選択肢だと思います。それはなぜなのか、価値が低いからなのか。
 おそらくこれからも考え続けるテーマ。

文芸難民の社会人に告ぐ
当ブログをXのアカウントと連動して一か月足らず、ブログ単独では読んでもらえなかった数々の方に認知読んで頂けたスタート月間となりました。従来から親交があった方々は、資産運用や資産形成の面でおいての興味関心で繋がった方たちであり、文芸読書とは何...

14位「都会と犬ども」マリオ・バルガス=リョサ 85view

 こんな上にまで上がっていたとは驚き。
 個人的にバルガス=リョサは、20歳前後から知っていて好きな作家だし、ノーベル文学賞を獲っているのも知っていたので、本記事をブログに書いてXでポストした時のあまりの無反応さに驚いた。(これはまたも私のフォロワー層の話にも関係する)
 全く読まれなかった。そこから登っているのは、やはり検索などの外部から読まれていたからであり、『クララとお日さま』に次いでの出世といえる。
 現在世界文学旅行と称してラテンアメリカ文学に親しんでいるし、関連図書を読んでも、バルガス・リョサはガルシア・マルケスと並び、ロベルトボラ―ニョに次いでラテンアメリカの重要作家であり、その作風や完成度の話を読んでもうなずくばかり。ではさて処女長編となる本作はどのような作品だったか。
 軍人養成寄宿学校に入れられた経歴を持つ作者と似通る詩人という人物を中心に、彼の同窓学生や上級生を含めた年上の男性性が織り成す1時代のほかに複数の視点や、監督軍人などの登場により重層的な作り出しは私の好みだし、著者の作風。後悔や選択の哀愁などの要素も詰め込み、処女作らしい青さを感じながら読める。
 私は女性性だし、遠く離れたラテンアメリカの10代の青年という全く関連のないモチーフ題材の本作は、本質的には興味がないはずだし、読んだところで身につまされる経験値の何もない。けれど関連もないのに読ませる、一つの読書になり得る、面白い作品。作家は基本的に内向的で中性的であったりするので、軍人学校や暴力的な環境と性質を持った本作は、文学作品としての個性で見ても面白い。

「都会と犬ども」マリオ・バルガス=リョサ
ネット上で散見される攻撃的な困ったちゃんから、何も獲得出来なさそうなチー牛こと弱者男性などのバーチャルから、現実的な愛しいあの人まで、全部ひっくるめた全ての男性への憐憫と慈愛の一考が止まらない一冊!

15位「海の見える街」畑野智美 84view

 人気記事ランキングは基本的に掲載時期が早いほど読まれる可能性が高いので、この作品も15位と上位ではあるが、掲載時期と、同著者の記事がいくつかあるので関連で読まれる可能性も高かったのだろう。それくらいに本作は別に何のおすすめでも何でもないことが私の意見である点には注意。
 モチーフ題材的には可愛いし、本ブログで生成したイメージイラストも青春的で可愛らしいので爽やかなのもいい。しかし本作自体は別に面白くもなんともない。
 ある港町に、職場恋愛に精を出す4人の図書館司書や公民館職員などがいた、彼らの話。
 ジブリ作品を思わせる題名も特に意味はないし、冒頭匂わせる喫茶店もパン屋さんも特に意味はないし、図書館司書や地域職員となった彼らの学生時代と現在との題材モチーフも特に消化しないし、青いインコが涙させ結び付ける恋があるようなないようなそんな作品。若かりし初恋的少女との幼児恋愛がトラウマとなったある男性の過去部分が一番の魅力か。夏、金魚、少女、トラウマ、モチーフは悪くない。

「海の見える街」畑野智美
海辺の街にある図書館や児童館で働く4人の男女が囚われた、思春期の苦さや社会人の狭さに、ジブリもカレーパンもナポリタンもウサギもロリータも投げ込んで、不慣れな恋愛小説書いてみました!小説家3年生😊

16位「かがみの孤城」82view

 比較的ブログ開始初期に読んだが、不慣れな私が適当なイメージイラストを載せていたことも要因かもしれないが、映画化もされている有名作品であるが外部からの読まれ方も少ない。
 個人的には同じ辻村作品の『傲慢と善良』よりもこちら推し。粗があるのは否定できず、終盤以降の畳みかけは作為的で良いが、主要人物となるオオカミ様と関連する人物とのエピソードの部分が弱く、故に鏡の世界観のモチーフ性の薄さに繋がっている気がするが、その後のもう一人の人物で作り上げるエピローグまでの流れは手馴れていて早さもあってよい。時空を感じながらもどの時代も苦しんで生きている子供たちがいることがよくわかる。
 恐らく著者独身時代に書かれたであろう『オーダーメイド殺人クラブ』では不登校ではないけれど、内的にこじれたはみ出し者的な人物像が描かれていたが(この痛さが著者の個性と思う)、出産を経て子供をモチーフにした時に不登校をテーマに描く時に、中和されて一般的な要素を一般的な素材として描くことが出来ている点は、大きな財産で価値だろう。一般的ではない自我を持つこじらせ系の素質がある人物が多い作風の印象だし、そうしたオタク気質的な要素を初期の辻村作品の個性や持ち味だと考えるファンも多いのだろうし、そこを何らかの形で脱して一般的な作家として広く読まれるにまで伸びて変わった著者は作風の意味では凄いなと純粋に思う。
 ただやはり色々ついてきていないので、もっと書いてほしい。読み続ける。

「かがみの孤城」辻村深月
辻村深月は作品性に優れるのに小説家としてはどうなのかという意味でその資質は判断に迷う。本作も刈り込める部分は多分にあって、魅力的な発想力に対し創作的な完成度が不足している。では辻村深月の豊かな作家性とはどこにあるのか。

17位 アジア人女性初のノーベル文学賞受賞作家の描き出す地域性、その社会「菜食主義者」ハン・ガン 82view

 芥川賞、直木賞にも言えることだが、2012~2023年位の間読書から離れていた私は、ノーベル文学賞作家についても特に読んでいないし、その前となると体系的に受賞作家にあたるなどといった熱心な総当り的読書もしていないし、ガルシア・マルケスやバルガス・リョサやミラン・クンデラやクッツェーなど、先に作品を読んでから受賞作家と知った場合を除けば、ノーベル文学賞作家の作品をそう認識しながら読んだ初めての作家がハン・ガンだった。
 芥川賞作品を読んだときに、なんだかよくわからないけど、これが文学なのかな?といった感想を持つことは結構あるのかなと思うが、ハン・ガンの本作は三編から成る本編のさわりを読んだだけでも結構面白いし、文章も読みやすく分かり易いし、ジェンダーや社会性も含みつつ、韓国ならではの単語も登場しながらも全世界的に普遍性で読めるような作品になっていて、現代的で読みやすく良心的な作品で、多くの人にとって読みやすいつくりになっていた。
 別に表題に上がる菜食主義やベジタリアンのそれ自体がテーマというよりは、モチーフはなんても良くて、その向こうにある普遍的な心理の描き出しだと個人的には感じた。検索して読んだ記事では、植物への逃避が他の作品でも登場するなどといったことも書いてあった気がするので、作者が好んで使うモチーフテーマなのかもとは思うし、他の韓国人作家が書いたアンソロジーでも人間が植物になったり植物に追いかけられたりといったメタファーが出てきて、人間性や動物性からの逃避としての植物というのは韓国文化や哲学や心理学的にはよくあるアプローチなのかなとも感じた。個人的にはそこは何も感じないし、それは本作の中核ではないと感じる。
 精神疾患的な発症が身内に起きた場合に、その心配や自我、罪悪感などといったものが、夫や姉など家族を形成する人間の内側に何を巻き起こすのか、というテーマモチーフの使い方が上手いし、そして描き出す個人の内なる罪悪感や個人的テーマの小ささから、韓国社会や現代社会の広さまで感じさせる書き方まで出来るのはやはり一筋縄ではいかない作家だとも感じられた。
 『回復する人間』という短編集も読んだが、執筆時期の違いを含め、成長性を感じ、その後『菜食主義者』などで海外の文学賞を受賞した経緯を見ると、親兄弟の七光り的に作家になった環境や経歴化の出発点からいかに発展し、作品を磨いて作家になったのかがよくわかる。韓国社会と韓国人作家に興味を持つきっかけになった一冊。日本のよくわからない純文系よりも分かり易く面白く読める、それって結構大事なことだなと感じましたし、韓国の商業的上手さは文芸でも顕著。

アジア人女性初のノーベル文学賞受賞作家の描き出す地域性、その社会「菜食主義者」ハン・ガン
韓国をぶっ壊せ! 告発はそれ自体、生きづらさを描くことが文学?アジア人女性初のノーベル文学賞作家が描いた前時代的な韓国、『菜食主義者』『回復する人間』を読みました >菜食主義者ビギナーのヨンヘから始まる彼女を巡る精神疾患を普遍的なテーマとして描き、自省する姉の視点は文学になりうる

18位 現代小説化の価値 畑野智美「大人になったら、」「若葉荘の暮らし」 79view

 畑野智美に関しては最初に読んだ『神さまを待っている』が一番良かったので、期待したその後が尻すぼみで意外性もなかったので、最終的には二冊をまとめて1記事にしつつ、それでも現代の作家が現代小説を書くこと、過去の名作や実力の全てが上の作家と同じように出版していくことの主題について書いた。
 小説は文芸、たかが文章、誰でも書けるものから、どれだけのものを書けるのかを求めて競うような趣があるので価値や実力の違いが分かり易くて残酷だなと思う。それでも、自分にしか書けないもの、自分には書けるもの、今の時代だからこそ書けること、書くべきこと、それを少しでも志向して磨き続ける思考と作品にしか形に出来ないものが必ずある、と信じる集中力や好奇心、責任感でしか価値ある文章は紡がれない。と人間が自他を信じ尽くす以外に虚構創作は生まれないので、ひ弱な集中力も、AI生成の膨大な無欠さにも負けずに、大きく強く豊かな文芸を求め続けたいし、求め続ける人を私は支持する。ただ、どんどん、どんな時代や世界になっていくのかな、とは思う。みんなが思う、技術の時代、その中で虚構創作や文芸はどんな価値を目指してどんな価値になれるのか。

19位 「老いぼれを燃やせ」時代のテーマを見つけ出す才能『誓願』マーガレット・アトウッド 77view

 これなぜ「老いぼれを燃やせ」が見出しの一番初めに来ているのか、結構不親切なタイトル。
 多く歳を重ねて老いさばらえていくだろうはずが、その発展的な作家性をして、最初に読んだ『侍女の物語』から時を経てさらに書いた『誓願』が悪くなかったから、それに被せたものだったような気がするが、一見すると不親切で、本項では中篇「老いぼれを燃やせ」は扱っていません、多数作家参加のアンソロジー『覚醒するシスターフッド』にて所収。
 マーガレット・アトウッドの名前とカナダの作家というのは知っていたが、同じカナダの短編作家アリス・マンローとイメージが混ざって、20前後のときも読んだことはなく、9月以降に読書を再開させてから初めて読んだ作家だった。このあたりは、海外作家は男性ばかり、国内作家は女性ばかり、を踏襲する個人的な好みにも関連するように思う。
 きっかけは2024年ノーベル文学賞の発表待ちの時期に書店で候補や関連作品の特設コーナーが作られていて、『侍女の物語』と共に本作が並んでいたところから。逆にアリス・マンローは2013年にノーベル文学賞は受賞済み、2024年5月13日に没されているそうです。
 退廃的なジェンダー・ディストピアを描いた『侍女の物語』は画期的だったろうし、話題になるのもわかる作風なので、当時も売れたらしいし、その1985年から時を経て2019年の『誓願』で自身2度目のブッカー賞というのだから、作家としての強さが並大抵ではないなと感じる。
 書きたいものを強く豊かに自由に書く、ただそれだけのことでこれほど作家も作品も輝くのに、それがどれだけ珍しく困難なことなのかがよくわかる。
 作品内容としては、女性性のディストピアに暮らす国の内側の事情や転覆、前編の一部ハッピーエンド、過去から未来へ繋がり異なっていく時代と人の強さや未来性などの明るさも魅力。

「老いぼれを燃やせ」時代のテーマを見つけ出す才能『誓願』マーガレット・アトウッド
『侍女の物語』『誓願』『老いぼれを燃やせ』と読んできて、私はこの作家が好きだと思ったし、その理由はテーマ着眼とその創作性、そして向上性と成長がある。小説家の技術は文章と創作技術だと思うが、才能で言うとテーマ着眼は外せないと思うし、著者はその...

21位「ザリガニの鳴くところ」2年連続米国で最も売れた小説、という触れ込み 76view

 作品のおすすめ度ではもっと高い、総合的には2024年読んだ小説の中で1番おすすめかも。映画で中断してから9月以降に書いた記事、読んだ作品の中では結構中心的なものなのかなと個人的には感じる。現代的だし、作品性も豊かで悪くないし、とても面白く読んだ。著者がもう1冊これ級の作品を物にするとは思えないけど、本業の動物学者の傍らでもう1冊何か書くならぜひ読みたい。
 母親や父親への愛、幼少期の自我や初恋、殺人事件や恋愛、ジェンダーや暴力性、野生や差別、多くのキャッチ―で普遍的な要素を巧みに撚り合わせて作られた本作の創作的な手つきは見事。ページ数は多いが一気に読めてしまうリーダビリティも現代で売れるための文芸の在り方や読書の魅力も教えてくれる。動物の雄も大変だけど、人間の雌も大変だし、生まれて生きて死んでいく生物の大変さ、その中で情感も忘れない、色彩も忘れない、スリルも忘れない本作は本当に上手い。

「ザリガニの鳴くところ」2年連続米国で最も売れた小説、という触れ込み
全般的に物凄く魅力的な作品に仕上がっている。特にこの生命力と、作品性の豊かさは目を見張るものがあるし、ある死体の発見からクライムノベル的なフーダニットが存在するが、本作のリーダビリティは圧倒的に主人公の少女カイアが親に捨てられ、兄弟にも逃げ...

22位「推し、燃ゆ」宇佐見りん 74view

 『コンビニ人間』の所で芥川賞や日本の純文系作家の発達障害の多様について触れたけど、本作はむしろ発達障害にアプローチするよりも、推しという社会現象から個人内側まで貫くテーマ性をより追求したほうがテーマとしてもモチーフとしても輝いただろうと思うし、狭い純文に収まらずに、現代的な文学性で攻めることが出来たと思うので、非常に勿体なかったな、と改めて感じる。もっと書けただろう素材で、書けたのはあれだけ。まあそれが表現力的な実力や才能やかなとも思う。
 個人的には次も何か読みたいとは思わないが、高価値なテーマモチーフを活かさず捨ててまで著者が中心に据えたかった発達障害が著者にとってどんな価値を持つのかを知るために何か読んでもいいとは思う。『かか』の方が評価が高い人の話も見たことあるしな。今回書きながら調べたら『かか』で最年少21歳で三島由紀夫賞受賞とのこと。著者は1999年生まれ、『かか』がデビュー作、2021年に『推し、燃ゆ』にて芥川賞受賞。2022年『くるまの娘』、単行本は3冊なのかな。今年26歳、華々しすぎる経歴で、日本人純文系にありがちな最年少系のオンパレード、その後が行方知らずな綿矢りさや金原ひとみの系譜に置いたら、逆にこの先勿体ない気もするけど、どうなんだろう。売り出し方は大人の自由だけど、書き続ける作家がどうなるかは気になりはする。そう考えると村田紗耶香はやっぱり面白かった。
 早熟の最年少は煌びやかだけど、最晩年に振り返った著作列や代表作の最高打点の方が勿論高価値なことは、商業性に好意的な見方のある私でも絶対的に感じる。作家の価値は処女作では決まらない。

「推し、燃ゆ」宇佐見りん
現代の芥川賞作家の価値とは?  あまりにも拙い文章が続いて、これは外れか、と落胆した。それが  長いこと切っていない足の指にかさついた疲労がひっかかる。外から聞こえるキャッチボールの音がかすかに耳を打つ。音が聞こえるたびに意識が1.5センチ...

23位「諸葛亮」宮城谷正光 74view

 朝ドラは女性視聴者が多いが、大河ドラマは男性視聴者が多い、は定説で、歴史小説の読者層も多くは男性であると聞いたことがあるし、本作の記事更新をXにてポストした時も男性によるリプが多かった印象。ただPVは伸びなかったし、私自身もそこまで面白く読んだ作品ではなかったので納得していたけど、この記事も外部から意外と読まれて、するするこの位置まで上がった印象。
 まずなぜ今宮城谷正光なのか、というような著者1945年生まれ、直木賞の選考委員すら務めたベテランもベテランな印象。とても誠実にものを書くし、誠実に作り上げる人、という人間性への信頼や好意がこの作家への個人的な感覚で、それ以上でも以下でもないような不思議な立ち位置。でも恐らく結構すごい人、歴史小説に詳しくないのでよくわからない。
 歴史小説はミステリーと同様に、ジャンル小説なだけで一定売れるし、一定作れる部分があって、特に主人公に据える歴史的人物の知名度やキャラクター性だけで読まれるところがある、優しくも難しいジャンルだと思う。その中で作者の個性や実力評価はどの部分でどのようになされるのか、私は詳しくないけれど、一般丁な小説の読み方の中にも平然と混じることが出来るくらいに文章も思索性もあるし、やはり人柄かなあと思わせる部分がどの作品にも顔を出したりする、同じような理由で時代小説が好きな葉室麟も個人的におなじように好印象。
 三国志の中でも知名度の高い人物である諸葛亮を小さな点として、上中下の3巻で描いた作品。長い三国志の履修・復習を簡単にできる意味でも優しい、劉備関羽張飛後の蜀での独り舞台、面白く読める。

「諸葛亮」宮城谷昌光
歴史小説は個人的にミステリー小説と同様に創作技術の一つであり、物凄くエンターテイメントなと思う。その中でも私は宮城谷正光と司馬遼太郎は好んで読んだ。 歴史的な激動を描くということは、臨場感や血がたぎるさまにどうしてもなりがちだと思うが、宮城...

24位「クロコダイル路地」皆川博子 68view

 本ブログでは一冊しか扱っていないが、私は皆川博子さんの長編が好きだ。物語の魅力や厚みを、作者自身が好み信頼している強さや豊かさを感じる。愛読者によっては幻想小説的な要素が強かったり、少女小説的な要素が強い時代のものが好きだと言う声も聴いたりするが、皆川博子さんの凄い所は、これだけ長く多く書いて、なお発展的に変化も成長もしていくその作家性で、これは例えばアトウッドに感じる好意もそうだが、より変化していると感じる意味やより創作的な展開が為されている意味で、やはり皆川博子さんは特異だろうと感じる。それはもうそれだけで凄いことだし、その価値の測り方は日本文学の中における形式や裁量では測り切れない不思議な印象があって、しかしそれでも遠い昔の過去に直木賞も受賞し、2015年には文化功労者に選出され、2022年には毎日芸術賞も受賞され、しっかり公的にも認められているのが不思議だし、素晴らしいことだと感じる。
 現在95歳。200歳まで書いてほしい、という言葉をいつかどこかで見たことがある。作家冥利に尽きる、文章は死なず、生まれ続け、読まれ続けることの体現に思う。

「クロコダイル路地」皆川博子
皆川博子の作品を読んだ後には、濃密で圧倒的な一つの人生や物語の跡だけが残る。 つまらない?とんでもない!

25位【映画】圧倒的な傍観者が観た米文学史のスター「華麗なるギャツビー」85点 68view

 映画ジャンルでの1位は全体25位、米文学で有名な原作を持ったギャツビーでした。途中以後の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の怒涛の追い上げに遭いましたが、こちらの方がポストした時や内側から読まれた印象、後者の方が外側から読まれた印象があります。ギャツビーは外側からはほとんど読まれていません。
 個人的に、原作小説のイメージは最悪、私の嫌いなアメリカ文学の粋を集めた感じがします。村上春樹の謎の存在感、なよなよした男主人公、書いて昇華する作家モチーフの上手くない使い方、能動的でもない強さで突き進むでもない男性像、なよなよした回顧や憧憬、気持ち悪さの塊ですが、原作は未読了、途中で挫折した以降開いていないので、滅多なことは言えません、イメージです。
 ただ、そんな気持ち悪いイメージの原作印象を払いのけ、華々しい映像作品として発表された『華麗なるギャツビー』は何よりもレオ様の映画。レオナルド・ディカプリオ、男性としても俳優としても全然タイプではありませんが、この圧倒的な華、ほんとに映画俳優としての存在感、その身一つ、その名前一つで大作映画をやり切れる、この価値の塊は何なんでしょうね。これは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』にも言えます。本作も他の俳優ではなく、ディカプリオだからこその華が素晴らしい。
 途中時空が捻じれたりしますが、カーレースも楽しめるし、ひき逃げ事件もマリオカートみたいだし、多数の不倫や悲恋をまぶして色彩豊かに作り上げた本作の印象は素晴らしい。ヒロインたる女性だけもう少し何とかならなかったかなというくらい、描き方も微妙でした、故にディカプリオ単独映画に終わっているのは評価が分かれる所なのか。
 古き良き文芸作品が最新の映像技術や現代的な俳優と感覚で新たに作り上げられることの価値と、ハリウッドというリバイバル工場と再演によるドル箱の再利用、そういうの含めてすべて良いです。

【映画】圧倒的な傍観者が見た米文学史のスター「華麗なるギャツビー」85点
(原題: The Great Gatsby)(2013) 非常によくできていてびっくりした。 こんなにも誰にも共感できないし、華々しい夜毎の栄華のような空虚さと虚像である一途な恋を重ねて見ても、突如始まる近未来世界のカーレースや原色ポップな...

26位【映画】お前のミルクシェイクもおれのもの!「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」90点 65view

 これ、観始めて退屈かなと一瞬思った後、ずっと面白かったです。とてもマッチョな映画で、私が好きな美人女優とか現代的な画面作りとかは一切出てきません。見分けがつかない中性的な双子とか、汚い言葉とか、土煙と油まみれの小汚い男が嘘やお金にまみれていかにのし上がっていくのか、ある意味で爽快で凶悪な映画、男性によっては好きな人はとても好きでしょうね。
 とにかく汗臭い、ミルクシェイクの名言は虚構的だし時代性に縛られない素晴らしいものですが、それ以外は凶暴で変哲そのもの。大体の筋書きも経緯も良くわかりません。でもそれぐらいの映画の方が想像の余地があってよいですよね、主演の俳優さんの演技もものすごいです、一見して頭のおかしい映画の主演って普通の俳優には務まらないのでしょうね。面白かったです。
 ただ女性が観て面白いかといわれたらちょっと微妙なので、完全に男性向け映画かなという感じ。それを含めてマッチョです、力と結果の世界、他人を潰すのって簡単だよね、成りあがってこそ人生だしそれ以外はそう成れない奴の戯言、という感じの映画。

【映画】お前のミルクシェイクも俺のもの!「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」90点
ある男の成功と孤独を描いた意味では「ウルフ・オブ・ウォールストリート」とも比較できるが、重厚さが段違いで、画面作り一つをとっても全場面に緊張感があり、軽薄さのかけらもない格の違いは創作的完成度に表れる。そして重い凄まじさが魅力的に仕上がるのだから、虚構性とは何かを改めて考える。

27位「掌に眠る舞台」小川洋子 62view

 小川洋子さん、最初に読んだ『猫を抱いて象と泳ぐ』が大好きなのですが、原作未読のまま見た映画版『博士を愛した数式』は好きな深津絵里さんなのに寝落ちしてしまったトラウマで読めておらず、その後これといった作品が見つかっていなくて、私は長編が好きなので短篇集ばかり出されるとさらに正直判断に困っています。ランキングには入らなかったですが『密やかな結晶』も、一冊だと判断に困りました。小説家の才能的なことで言うと、とてもあるだろうとは思うのですが、野心や威力は足らない気がする。『猫を抱いて象と泳ぐ』にはそれがあった。その片鱗は本作にも感じます、記事内で引用した蝶とベビーカーの内緒話みたいな密やかさ、素晴らしかったです。
 もっと読みたいとは思っている作家さん。ただ、村上春樹共々翻訳され世界的に読まれている国内有数の作家ならもう少し威力が欲しい、時代的価値観から仕方なかったのかもしれないが。

「掌に眠る舞台」小川洋子
小川洋子の魅力はまずモチーフ選びにあるし、豊かなそれを例えば実写化するよりも素敵に仕上がる文章で書きあげる所で、ああ、いい小説家だなあと思う。 どう足掻いても実写の映像では作り上げられない魅惑的な世界がそこにはあって、そしてそれは読者の眼か...

28位 現代小説の癒しチーム代表「木曜日にはココアを」「お探し物は図書館まで」青山美智子 62view

 これといって特に書くことが思いつかない。思い出して厚みがあるタイプの小説ではないが、読中読後爽やかだったり可愛らしくてするする読めて気持ちがいいし、その軽さは気軽な読書にはもってこいなのだろうなと感じる。いやな気分になる可能性もないし、変な重さもないし、温かくて可愛らしくて心地よい。新作を出すペースも早い印象があるし、装丁や題名もキャッチ―、売れ筋作家の路線をひた走ってほしい。出版社や書店が売りたい作家がいるのは結構なこと。

現代小説の癒しチーム代表「木曜日にはココアを」「お探し物は図書室まで」青山美智子
主体的な行為や誠意をいかに排除するかで成り立つ娯楽性を発達させていく商業の中では、受動性の易きに流れる消費者を取り込むように、提供側は主体性の根本を減らしてきた。文章を読むということの主体性にある労力が、受動性に特化してきた現代の他の娯楽に...

29位 世界文学旅行 60view

 こちらも、人気記事に入れるのは違うかなという感じもしましたが、一応。
 表題のように称しながら、読んだ国を世界地図を塗りつぶして読書による体験を広げるし網羅的に楽しめると思った企画案。国ごとのまとめと、年代的な並び替えと表記に変えたいと思って久しい。
 ラテンアメリカからの脱出はいつになるのか? 次はアメリカかなとうっすら考えています、ジュノ・ディアスやアメリカン・サイコ、ものすごくうるさくて、ありえないほど近い、からの流れ、そして私はリチャード・パワーズが好きです。

世界文学旅行
働いていると本を読む時間がなかなか取れない、そんな人の為に「読んだ気になれる書評」。 働いていると旅行する自由がなかなか利かない、そんな人の為に「読んで旅するブログ」。 自分の目で見て足で歩く旅行もいいですが、そこに住んで生まれて営む他人の...

30位「丸の内魔法少女ミラクリーナ」村田紗耶香 59view

 改めて見てもこのタイトル良いですよね、少女心を忘れずに社会人を頑張る風情、女児からの親友との友情、現在の助け合いなどなど。もう少し色々書き切れていたら素晴らしい作品になったモチーフテーマだと思います、本作はその意味では結構微妙。タイトルとモチーフの価値、出たとこ勝負以上の何かにはなっていません、もう少し書き切れた、気合も完成度もまるで足りない。表題作を含めた短篇集、最後尾に隠された1編が1番面白いです、この作家的個性を確かに感じる。『コンビニ人間』についで、佐藤亜紀に次いで、50位以内に2記事は伊達じゃない!

「丸の内魔法少女ミラクリーナ」村田沙耶香
小説を読んでいると、こういうことがある。 「コンビニ人間」であれだけの完成度とテーマ性を誇った作者の作品の中でも、ひときわ目を引いた本作を図書館の本棚で見つけた時は嬉しくてすぐに手を取った、そのあとで「コンビニ人間」を先に読んで、なんて素晴...

31位【映画】絶妙なすれ違いが一生愛おしい「あと1センチの恋」90点 58view

 恋愛映画は個人的には微妙ですが、この作品が面白かったのは、一組の男女の人生を描けている点かもしれない。鑑賞当時は主演のリリー・コリンズの可愛らしさ、モチーフとしてのすれ違いの作為やあるあるなテーマ性に惹かれた。
 何も考えずに見ても楽しく可愛い、音楽もポップで気持ちいい、振り返ってみても厚みがある見方もできる、2時間の恋愛映画にしては十二分以上の魅力があります。

【映画】絶妙なすれ違いが一生愛おしい「あと1センチの恋」90点
(原題: Love, Rosie)(2014年) おすすめされなければ自分では絶対に観ない系の恋愛映画、物凄く面白かった。こんな作品を知っているセンスと人生が羨ましい。そして私も今日からその仲間入り。なんてティーンで、なんてもどかしく、なんて可愛らしくも取り返しのつかない気持ちの探り合い、そして軽率と不器用。こういう恋愛をしたことがある人も多いだろうし、そういう人は序盤から胸を掴まれる。

32位「双眼鏡からの眺め」イーディス・パールマン 56view

 これもまさかこんなに読まれるとは思わなかった、更新ポスト当日も1桁しか読まれなかった最低な滑り出しだった気がする。
 題名からして素敵でしょう? 装丁も素敵なんですよ。
 同じカナダ出身のアリス・マンローと短編の名手を競う形らしいですが、私は前者を読んでいないので、パールマンとアトウッドの関連として、読もう読もうと思いながら、やはりどうしても短編作家というのが個人的な感覚で後回しにしてあり、本作は20歳前後に読みきれずに図書館に返却したリベンジでした。
 当時は今以上に事前情報も何もない状態で選んで読む、という読み方をしていたので、題名と装丁で借りて読み始めて短篇集で驚いたような記憶があります。
 作者の生い立ちと関連するユダヤ的な要素を被せた読み方が出来るか否かが大きいとのことで、一時関連書籍を読んだりもしました、いろいろな意味で勉強になった一冊。文章だけで表現する文芸の方法は、これほどに密度や多彩で彩ることが出来るのだということも感じた。本棚にあります、思い出の一冊。

「双眼鏡からの眺め」イーディス・パールマン
本作の翻訳版の初版は二〇一三年五月らしく、私は時期的にその少しあとぐらいまで読書をしていたのかなと思う。当時私が本著を手に取ったのは題名と装丁が素敵だったから程度の選択で、正直に言うとその時の私はこれを読み終えずに図書館に返却した。 本著は...


33位【映画】ラストシーンの為に観る2時間、トム・ハンクスが染みる「オットーという男」55view

 映画が続きますね、以後5作続きます。
 ブログ関連で映画を観るようになって気づいたこととしては、私は頭で思う以上にトム・ハンクスが好きなのか、トム・ハンクスが私が好きなタイプの作品に良く出演しているのか、何なのか、遭遇する確率が高い。作品をとても暖かい雰囲気にする俳優さんですよね、その意味でとても好きだし、本作も主演の魅力の賜物のような作品。
 原作はスウェーデンでヒットした「幸せなひとりぼっち」。原作関連で他の作品も読みました、恐らく完全にこちらの方が上、そして何よりラストシーンの映像作品ならではの可愛らしさと効果が好きでした。華はありませんが、2時間で人生の長さと儚さと温かさを感じさせてくれる、良い作品。

【映画】ラストシーンの為に観る二時間、トム・ハンクスが染みる「オットーという男」80点
(2022) 主演トム・ハンクスがスウェーデンベストセラー『幸せなひとりぼっち』原作小説の映画化

34位【映画】ジョニー・デップの打率、映画作りの面白さ「ネバーランド」→「チョコレート工場の秘密」 54view

 なぜこれがこの位置に来ているのか理解に苦しむ、ジョニー・デップの知名度なのか?
 そういう作品であるのは、「ネバーランド」にしろ「チャーリーとチョコレート工場」にしろ、同様です。個人的にジョニー・デップ出演作で好きなのは「シークレット・ウインドウ」っていう頭がおかしい小説家の一人舞台みたいな映画、スティーヴン・キングの中編小説が原作。何が面白かったのかは全然思い出せませんが。つまりジョニー・デップってパイレーツ以外はそんなに作品に恵まれていないのでは? せっかくの映画俳優なのに。ディカプリオと対照的な感じ。スター性って何なんだろう、作品を見る目大事だよね。

【映画】ジョニー・デップの打率、映画作りの面白さ「ネバーランド」→「チョコレート工場の秘密」>>>>>>>「チャーリーとチョコレート工場」
「チャーリーとチョコレート工場」(2005)はお金と技術をかけて大衆の期待を盛り上げてジョニー・デップを使っても、こんなにもつまらない映画が作れるものなんだな、ということを教えてくれた驚きの映画だったが、1971年版の「チョコレート工場の秘...

35位【映画】ジョーカーと死刑制裁、闇が光に代わる「ダークナイト」96点 51view

 これ年間映画で一番面白かった、完成度やテーマ性などと社会性を考えると『アメリカン・スナイパー』の方が上だなと感じるけど、モチーフや虚構性の強さ、単純な魅力はジョーカーの方が上で、その意味ではフィクショの魅力や威力を強烈に感じさせてくれた。素晴らしかったし、私が映画鑑賞に逃げてきたのは現代売れ行き文庫№1とそれがモチーフにした19世紀小説を含めた文芸小説に落胆し不信感を持ったからだったが、3か月の映画鑑賞期間から卒業したのは、本作が面白過ぎてこれ以上はなかなかないのかもしれないと思ったからだった。一度上を見てしまうと、その後は他に不足を感じて物足りなくなってしまうのは良し悪し、まあきっと良し。
 同じ映画を何回も見るということは子供の頃以降ありませんでしたが、本作は2度見ました。
 パッケージの印象からわかるこの虚構性が嫌いでなければぜひ2時間お使いになってください。このジョーカーの色気、哀愁、可愛らしさはコミカルにまで届き、しかし根っからの黒、私は完全に好きでした。スパイダーマンやアイアンマンなど、アメコミ系が嫌いな私はジョーカーもバットマンも好きではありませんでしたが、『ジョーカー』が社会的なテーマ性で魅力的だったので見直し、バッドマン・シリーズも見始めたことがきっかけでした。注意点としては『ダークナイト』は『バッドマン・ビギンズ』と『バッドマン・ライジング』に挟まれた鑑賞順2番目の作品であること、タイトル的におかしすぎるやろが…。2の『ダークナイト』が96点なら1.3は60点くらいかな。
 元カノ・ハーレイも見つけたり楽しみつつ、ほかのDC作品も少しは気になる等フィクションの楽しみ方が広がったのも光明。『ジョーカー・フォリア・ドゥ』(2024)はこけたらしいですが、それぞれの世界観や監督や役者ごとに枝分かれしているのも虚構創作的で良し。

【映画】ジョーカーと死刑制裁、闇が光に変わる「ダークナイト」96点
(The Dark Knight)(2008) 「誰もお前にジョーカーは売らない。お前はルールを守る正義の味方、だがジョーカーは正反対。恐ろしくて裏切れない」(奴を捕まえる方法はただ一つ。分かっているはずだ、マスクを脱げば、奴から現れる) ...

36位 【映画】起業家の原点がここまで魅力的な虚構性を持ち、優れた作品にも恵まれるということ「ソーシャルネットワーク」 51view

 現メタプラネットのCEOで故Facebookの創業者であるザッカーバーグの起業秘話を元に映画化されたこの作品。主演も良いし、冒頭のキャッチ―さは目を見張るものがあるしアメリカらしいオタクからの大成功サクセス物語は、虚構創作としてもぬかりない。ラストシーンの不甲斐なさと可愛らしさと爽やかなBGMによるエンディングが印象を底上げ。いみじくも、可愛らしくも、爽やかで面白い作品。
 米国は大統領選挙や支持政党に関連して、芸能や経済界やビッグテックの経営者等も言及や参加したり、政治や経済、技術の中心である米国、の位置を崩さないし、それがさらに特化している感のある現在。イーロン・マスクの政治参加も勿論ですが、ザッカー・バーグやマイクロフトのビル・ゲイツなど、大企業のCEOのスパーヒーロー感、全能感、キャッチ―さなどがあり、お国柄だし、華々しく強力な印象性。魅力的な虚構性が更なる効果的な虚構性を演出し、さらに興行的に現代を引っ張っていく感を作り出す、文化も演出もチャンバラも大事、文化的牽引について考える。

【映画】起業家の原点がここまで魅力的な虚構性を持ち、優れた作品にも恵まれるということ「ソーシャル・ネットワーク」90点
SNSという個人と没個人の機能不全と交流性による両パターンは、現代が抱える病気と発展性の一つであり、それにさらに選民意識やマッチョや成功や能力などの要素を分かり易く配置しながらも下品に成り下がっていない所も上手く感じるし、それを具現化したような<Facebook>の基礎イメージも相まって、やはり本作は非常に上手い作られ方をしている。

37位【映画】リーマンショックの裏にあったドラマや金融市場のテーマ「マネー・ショート」 50view

 今思えば、本作のキーパーソンの一人であるクリスチャン・ベールは「アメリカン・サイコ」の主演の人だったんだな、その後バッドマンシリーズ3作で見慣れて、どこかで見たことがあるなと思っていたが、本作では主要人物であろうとそこまでピックアップしないし、その意味ではキャラクターの演出の意味では弱め、そこまでエンタメに作り上げる心地は感じなかったか。ブラピも謎。
 ある意味で人生の破壊や転落を含めた現実事件の扱いづらさや難易度を感じさせもする、これは9.11を含めたアメリカが現代現実テーマや社会問題をどのようにフィクションで扱う時の手際の注意点、そして商業性や作品性との融合や並行の集大成的なテーマともいえる。
 金融や経済がいかに人生や社会に影響を持つのか、派手な戦争や暴力とは異なり実感は人ぞれぞれだし目に見える影響はなく、数字や認識でしかとらえられないが、現実と現在を支配する完璧な網羅と余波は今後も世界を覆っていくし、その恐ろしさを感じさせる。
 抑えた虚構性ではあるが、主演4人の魅力は十分。一世一代、アメリカ一国のみならず全世界的大不況に繋がる世紀の金融ショックの裏側や中心では何があったのか、虚構創作による2時間を通して解説・追体験できる、フィクション作品のお手本のような魅力は健在。

【映画】リーマンショックの裏にあったドラマや金融市場のテーマ「マネー・ショート 華麗なる逆転」80点
「The Big Short」(2015) リーマン・ショックは2008年9月のアメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけとする世界的金融危機のことですが、発端は2007年末頃からの米国内の住宅バブル崩壊と言われています。そんな...

38位【図書】「クリスティを読む!」大矢博子 50view

 まさかこれがこんなに高位あるとは思わず、今驚いている。
 文芸にしろ映画年表にしろ、虚構創作は当たれば楽しいこともあれば外れを掴むこともあり、全体像の把握は困難で体系的に当たることも予備知識がないと難しいし、何より膨大な時間がかかる、その意味で本冊子や、最近読んだ「ラテンアメリカを旅する58章」や「100人の作家で読むラテンアメリカ文学ガイドブック」など、総集編的な冊子のありがたみが分かるが、そういう読書はなかなか先行していない気がするし、何より私自身も、本を読むために読む本のイメージは今までなかった。
 例えば、読むより書きたい人が多いといった潜在的な要素はケータイ小説がはやった時期によく目にしたし、このようなブログ媒体やX媒体などの発信性や自己肯定感や承認欲求にも関わるかもしれないが、読むことそれだけに注目した時にも、体系を読む堅苦しさよりも、自分で当たる冒険感は正典に優るし、その読書体験の魅力は自然であるほど運命的な魅力があるようにも思う。ただ、道しるべがあった方当たりを引く可能性も、体系的に読める魅力もあり、最近ではそうした手引きの価値も感じる。
 アガサ・クリスティの虚構的な価値は計り知れず、ミステリーというジャンル小説の枠を超えて虚構創作の大きなモチーフ価値の一つになっていると思うし、ミステリーがジャンル小説の枠を超えて、虚構創作における商業性の強さを持つことが挙げられると思う。現代日本でも小説やドラマにしろ、弁護士や探偵や刑事ものなどの事件性があるものはそれだけのでプロットや物語のアクション性を多分に含んだ作品性を約束し、虚構創作におけるリーダビリティや、ある一定のアクション性がある意味でテーマそれ自体になり得るし、一定の満足度やカロリーの供給の約束にもなる、分かり易い公約がある、どんな作品であるかのお約束が為されているお手軽な消費物の様相がある。
 私はフィクション性の消化はそれ自体ではなく、それが表現するテーマ性がこそ魅力や価値だと思うが、そのフィクション性が表現であることは揺るぎないし、大多数にとっての虚構創作はそれ自体の魅力だとはわかるし、それは勿論一理ある。
 クリスティは文学ではない、でも虚構創作の第一人者で綺羅星である事実は揺らがない、だからこそ宝物のような色気があるし、多数の著作物を物にした華々しい集合体があることが、また一つの作家的な虚構性を増すし、それを読者が分かり易い指標となり分かり易く消化する中心点にもなり得る。作家がモチーフなるようなもので、一作で終わらない、著作列でその作家を見るときの多くの虚構性やテーマ的示唆、そして私はそこに見る発展性や成長性が個人的に好きなのもあり、それは人の魅力や信頼にも繋がる、紛れもない紛い物のない一つの人生にまた虚構性を感じる。

【図書】「クリスティを読む!」大矢博子
日本の近現代のミステリーの親しまれ方は、図書室のシャーロックホームズだったり、名探偵コナンや金田一少年の事件簿だったりのアニメや漫画による広く浅くであったり、連続ドラマによる刑事物や2時間もののサスペンスやその原作、小説でも東野圭吾や宮部み...

39位 文芸読書というモラトリアム、あるいは言語全般の価値という空想 50view

 文芸のみならず、虚構創作が、労働や現実と相容れないのは、そっくりそのまま、人生や人類との関連性が現実的ではないからだ。故に優先順位が低く、即物的な効果や現実的な損得に関わらない。けれどでは、志向性や憧憬による活力や展望はどのように養われるのか、そのあたりが多分私の興味で渇望だと思うけれど、果てしない空虚のようにも思うし、答えがどこにあるのか、明確な約束もないし、やはり即物的な要素の方が価値に感じるし、その分かり易さ、目に見えて即効果や価値があると分かるものの方が魅力的で、その意味で私たちはただの体だし物で、現実や直撃の事故に負けたい。可能性で勝ちたい思いがないだけ弱い。人の憧憬の魅力や価値、可能性を信じられない分、私はいつも不安になるし、つまり他者や自分という人間性や将来性の価値を信じていないことになるし、続いて来た人類性が何であるのか、継続する現実の流れを受け容れる仕方に則さないといけない気もしてくる。現実は明確、それ以外を養うには若さや時間と密度が必要、それは日常に制限されて生きている社会人には難しい。少ななくとも私には難しかった。

40位「たゆたえども沈まず」原田マハ 47view

 著者は結構人気作者だと思う。前面に出す絵画芸術的な虚構性も専門性の経歴も箔がつくし、題名やモチーフもそれに関連し、虚構に触れて浸る読書のモチーフは十分、その意味で商業性による成り立ちの高さは分かる。ただ別に思い返してみて、何か得たものがあったとは思わず、虚構創作の難しい所だとも思う。文芸だなあ、しかしその密度があったとも思わない。おしゃれ系文芸? イラスト系ではないので雰囲気はあるか。

「たゆたえども沈まず」原田マハ
彼女が描き上げたかった芸術家の一生とは? 本作は誰もが知るところの画家、フィンセント・ファン・ゴッホがその生を閉じるまでの芸術家としての足掻きと苦悩、それを金銭的・経済的にも支える弟の筋を主軸に、脇に浮世絵を西洋に持ち込み広げることに成功し...

41位【映画】ある意味では非常につまらないマクドナルドの創業秘話「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」 47view

 夢が形になった、という意味では、本作の創業秘話はその一端を体現しているし、アメリカンドリームの虚構モチーフも悪くない、そして始まりの兄弟の夢から、経営や売り出しの仕方という現実的なアプローチの段階に入り、後は法的な契約や裁量の段階に進んでいき、現実は絶えず移ろって事象であることに続いていく部分も面白いが、本作は虚構創作としてのモチーフ性をそこまで魅力的に表現はしていかないので作品性としてはそれほど高くない。おそらく、現実的な企業としての力が強いし、そこはイメージ商売の面も手伝って、現行巨大企業に対するアプローチの難しさ、虚構創作の弱さや作り手の弱さなど、多くの要因があったように思う。ただ、兄弟の組み上げた素朴な夢や画期的なシステム、そこに感嘆して始まった、それを伝えるための側面の映画だったのだろうと思えるところに、作り手の良心が見える。

【映画】ある意味では非常につまらないマクドナルドの創業秘話「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」70点
>おそらく本作は、自叙伝を採用したドキュメンタリー映画の体を持った少々の告発。自分の信じた色で世界を塗り替えることが出来た幸せな黄色と赤の二時間

42位『百年の孤独』の後に書かれた『純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたい物語』ガルシア・マルケス 43view

 このランキングの弱さとしては、集計期間を個人的な機関の年間で区切っているため、先に投稿した記事の方が期間t経由売りがあり、後発の記事は数か月の閲覧期間の可能性しかない為、2024年の2月に投稿した「黄金列車」より9月に投稿した「ザリガニの鳴くところ」より12月に投稿した「エレンディラ」記事が不利なのは間違いなく、もし来年も周年記事としての本記事に類似したものを書くとすれば、私は2.3.4月に本願の作品記事を投稿すればランキング上位を狙いやすくなるし、その意味で本ランキングの細かな順位の妥当性はほとんどないのが分かる。
 ただそれにしても、1.2か月しか掲載していないのに42位にまでごぼう抜きにするので、作品の知名度はやはりあるし、或いは私の書き方やイメージイラストなどが不足だっただけで、著者は作品の順位では決してないが、力の示し方は感じる。しかし本作は中短編集になるので、作者の著作列としては力不足の感。『族長の秋』は読んだことがあっても、『予告された殺人の記録』など、他作品も何作も未読なので、また少し難点。必要と好みが違うことは、現実と虚構性にも似ている、私にとっては大事な点。

『百年の孤独』の後に書かれた『純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたくも痛ましい物語』G・ガルシア・マルケス
一九八二年のノーベル文学賞がガブリエル・ガルシア=マルケスに決まった時、当時五十四才の現役でしかも世界的人気作家ということが大きな話題となった。一九六〇年代に起きたラテンアメリカ文学の世界的<ブーム>の頂点となったのが、魔術的リアリズムの作...

43位【映画】圧倒的なテーマ性と完成度、とんでもない映画「アメリカン・スナイパー」42view

 今思い出しても面白いので、「ダークナイト」に並んで映画作品としては1.2を争うおすすめ。個人的には銃撃戦の虚構性も好きではないし、愛国心煽りも反戦の極左もテーマ的に好きではないし、米軍関連も社会的な要素としては気軽ではないです、それにしても本作が魅力的で高価値だと感じるだけで、その価値評価を感じていただけたらなと思うばかり。そして極左的な監督による平常心的なとんでもない仕事、現実の進行により虚構創作が決定づけられテーマづけられ、運命づけられた交差の魅力ともども、並大抵の作品ではないと感じます。
 本作が良すぎて、主演のブラッドリー・クーパーの出演作品を何作も見るくらいには虚構創作的な魅力も十分、多くがラブコメばかりだったけど、スタンダードなアメリカ人男性とおぼしき色気に魅了される面も強く、私はアメリカ的な虚構性を好きではなかったけれど、アメコミDCのそれと同様、食わず嫌いだった面も感じたりもした。

【映画】圧倒的なテーマ性と完成度、とんでもない映画「アメリカン・スナイパー」100点
『アメリカン・スナイパー』( American Sniper)(2014年) 本作は悲しみや生きづらさしか描いていない。虚構創作する経過において、現実の出来事を事象として幕引きが定まったことにより、そのテーマはより明確化した。仮にその出来事...

44位【映画】久々の大ヒットが少年漫画という商業性、生まれ変われ邦画界「キングダム」40view

 最近、アニメ版を最新シリーズまで見て、やはりキングダム面白いです。
 少年漫画は長らく日本の虚構創作において大きな影響力や市場になってきたと思うが、そのスタンダード作品がアニメまで成功させ、実写映画までここまで大成功させると実現をした作品は他にないのでは。映画会社や監督まで調べていないので何とも言えないが、大局的な転換期は『るろうに剣心』だったと思うし、漫画原作しか映画の企画が通らない、固定客が観るから商業的な安心が多少ある、等の現実的な要素を乗り越えて、本気で作ろうとした結果の集中を感じるし、現実的にその集中は元からアニメーションや二次元文化の強い国の面目躍如だし、漫画、アニメ、映画、のストレートなステップアップと、それぞれの段階における失敗と成功と多様な価値魅力のはじき出し方など、大きな成功例を作っていて素晴らしく頼もしいなと感じる。
 個人的には少年ジャンプで育ったので、『るろうに剣心』『キングダム』など集英社や少年漫画の流れは楽しいし、その暑さや虚構性が志向として好きなのもあるか。アニメ版の魅力で言うと個人的には『鬼滅の刃』はキングダムに遠く及ばないと感じる、映像技術やその集結という意味ではやはり抜きんでているし、逆に『HUNTER×HUNTER』は何度やってもなぜあんな出来になるのか不思議でならない、アニメスタジオの違いってそんなにあるのだろうか?原作の画力とか威力を考えると見劣りが凄いし、名場面があんなにあるのに勿体ない。体感として、他アニメは1.4倍速が適当だが、HUNTERは1.6倍速にしないと遅く感じるのが、アニメ版の不出来を表している気がする。子供向けってわけでは絶対にないのに。漫画原作の魅力と、アニメ版が違うこと、そして実写映画版の成功も、何から何まで等号通りではないからこそ、キングダムのストレートな成功例は価値が高い。

【映画】久々の大ヒットが少年漫画という商業性、生まれ変われ邦画界。山﨑賢人はもう孫、心配は小栗「キングダム1・2・3」80点
邦画の実写でここまでのドル箱を作り上げた、素晴らしいことだと思う。原作は長編であるから、あと何作もシリーズを作れると分かってからの豪華な俳優陣の投入はすさまじいし、約束された成功に資金と人を投入して一挙集中できる物作りの魅力が詰まっている。...

45位 これが現代韓国が推す作家の作品?『わたしたちが光の速さで進めないなら』40view

 今思い出すと、経歴や装丁の後押しに負けない中身はあったような気がしてきた。そしてSFというジャンルと文芸性の融合を持って文学的な雰囲気や普遍性まで近づいている感じすらあったような気がしてきた。でもなんだか印象上でも威力が足りない気がするし、感慨も弱い、それは何だろうか。
 総合的にチームでの作り上げと、個人才能や実力との違い、恐らく現代から将来はどんどん前者の力が増していくし、機械や技術も含めて創作はどんどん個人や人間性を離れていくだろうが、その場合に、一つの作品や鑑賞がどこへ行くのか、その一端ではあると思うし、それは例えば映画製作も同様だし、アニメ作りなんかも同様で、そこへ行くと文芸小説はその最古としての個人最小から始まることの出来るただの文章だから、ある意味でその矮小さが、どこまで最大化していけるのかというテーマが私にとっての文章や人間性の価値や可能性なのだと思うと、それを担う文芸の個人的な価値が見えてくる。
 現代人類的な技術革新が進み、恋愛やミステリーなんかのジャンルやモチーフと結合して、売れ筋になったり一般化まで遂げたりする文芸の方向は悪くない。それはカズオ・イシグロもそうだし、筒井康隆やリチャード・パワーズにもみられるし、現代はどんどん科学へ、つまり人類もフィクションもそのように進む。

これが現代韓国が推す作家の作品?『わたしたちが光の速さで進めないなら』キム・チョヨプ
最近はxでも読書界隈のアカウントも見るようになって、流行り廃りの早さ、一次的にTLに流れる新作などがわかりやすくめについては消えていくのだけど、一時期よく見かけた韓国SF作品『わたしたちが光の速さで進めないなら』を読みました。xなので短文で...

46位 テーマ・モチーフは色褪せない「高慢と偏見」「侍女の物語」オースティン、アトウッド 40view

 今の今まで、オースティンンお「高慢と偏見」をこちらで言及していることをすっかり忘れていたので記事を読み直してみると、ジェンダーモチーフに対しての作家の創作性と、時代に縛られた創作技術やテーマモチーフの仕方について、結構真面目に書いてあって、自分で書いた記憶はすでに一切ないけれど、思わず読み入った。
 テーマの着眼も作家の才能なら、テーマモチーフの使いや表現力、文章や構造形式の選択なども作家の実力で、簡単に一作が作り上げられるわけもないのだが、鑑賞する者はその魅力も一文も感慨もすべてを一緒くたにして受けるし、語る。途方もなさを感じた。

テーマ・モチーフは色褪せない「高慢と偏見」「侍女の物語」オースティン、アトウッド
ある日突然、主人公の女性は仕事も預金残高も奪われ、両足を失った気分になる。 預金残高は最近親者となる男性の所有財産に移るだけだったから、主として彼女の財産を得た夫は何でもないじゃないか安心するようにと彼女を抱きしめたが、主人公は既に強い違和...

47位【映画】キッチンカーで全米横断「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」 39view

 映画記事の中で一番初めに読まれたのがこの記事だったと記憶している。
 難しいことは考えずに、おいしそうな料理とラテンの明るい雰囲楽と画面作りが楽しく、目立った荒もなく古典的ながらも熱さや厚みを持ったキャラクター性も愛おしい作品。

【映画】キッチンカーで全米横断「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」85点
期待せずに見始めたが、美味しそうなホットサンドと明るいラテンのノリが最高。 非常に明るく夏らしい、家族で楽しめる元気が出るサンドイッチ映画。 有名レストランのシェフであることを人生のメインテーマにしていた半生が離婚の原因だったと推測される家...

48位「星の子」今村夏子 39view

 初期の作品、現代国内の作家の中で誰を読もうかなと、20前後には読んでいなかった著者を選んだ。
 家族への愛おしさ、友人への恥ずかしさ、無力な自分と見えない姉。一人称ではあったと思うが、本作の主人公は多くを吐露しないので、しつこさも押し付けの強さもなくするすると読めてしまう作品だが、そこはかとない厚みは感じるのでそれは魅力か。ただ鮮烈さはないし、著作列の他のタイトルや装丁もそこまで惹かれるものはなし。芥川賞受賞作家だが、そこまで純文系だとも思えないし、何系の作者なのか、界隈が気になるところ。個人的には結構好きだが、何を物にするタイプの作家なのかは上手く見当がつかない、既読は一作だけ、強烈な印象がないのが大きな理由だとも。小さな話すぎるのかなあ、でも思い出す本作のラストシーンは結構感傷的だし、時の流れと未来の広がりにも愛も感じる素敵なものだった気がする。ある例では時として家族と幸福は難しい。

「星の子」今村夏子
十年越しの作家、とも言えるかもしれない。今村夏子という名前を私が知ったのは2011年の「こちらあみ子」の書評か何かだったと思う。そしてそのまま私は読書の存在しない長い空白に入ったので、本作が初対面ということになるが、なるほど噂の今村夏子はこ...

49位【映画】アギレラの独壇場、シェールの必要性「バーレスク」39view

 エンターテイメントというのは結構難しいものがあって、時代の制限が強いし、ある意味で水物、その中に何を感じるのかは文化になるし、瞬間的には間違いなく商業、興行の魅力と威力は歴史的にとらえることが必要になってくる。私は歌手や音楽業界に疎いので、本映画で主演を務めた歌姫がどういう価値と歌唱で存在しているのかもよくわかっていないし、実際のバーレスクがどのような文化として当時や現在は認知されているのかも把握していないけれど、一夜の夢的な虚構性は好きだし、女性性のルッキズムやその文化を虚構性として消費するたぐいも結構好きです。2024年の映画鑑賞の中にはミュージカル映画も一つのテーマになって何作か見たけど、本作を含め、「ラ・ラ・ランド」「ラ・ラ・ランド」や「グレイテスト・ショーマン」や「レ・ミゼラブル」などがあったけど、苦手意識は無くなったし、フィクション性の集結だと思えるようになった。

【映画】アギレラの独壇場、シェールの必要性「バーレスク」85点
(2010) 周りが驚くほどの熱意がまず才能。人はそのパワーに圧倒されるのだな、と思った。 全身と動作を売っている女たちのプライド。歌一本でのし上がる女の強さを前にすると、口パクと踊りに徹した彼女達の舞台とは異なるし、それらが経営不審だった...

いつもいつも長い記事、お疲れさまでした!

 初めて目次機能を使ってみました。文字数はカウンターだと2.7万。何人の方が一度で読み切れるかわからず目次をしおり代わりにでも使ってもらえたらなと。毎回長いブログに辛抱強くお付き合いくださる方がいると思うとそれだけで感謝。
 一年間の読書歴や自分の思考と変化や発展性を考えると、それだけで結構面白かったし、振り返りだと作品単独ではなく俯瞰的な目線や時系列の意識が含まれるので、作品単独記事とは異なる目線や思索が出来て面白かった。文芸小説を何冊読んでもどうなるのか、という問いがあるとすれば、点より線で経過する思考や読書体験による自己の発展性があるのかなと感じられ、あとはそのインプットアウトプットの扱い方や自己完結と発信性もあるのかなと。

90記事中50記事、ランクイン比率は
 2~5月の前期記事が24(/24中/100%)、映画記事が14(/42中/33%)、9~1月の後期記事が12(/24中/50%)
やはり前期の作品が有利であること、その中で不利な9月発表のハンデを乗り越えて10位と大健闘の<「BUTTER」は「ナイルパーチの女子会」より優れた小説なのか?>は目立つし、期間的には長いが映画倉庫に閉まったりしてる映画記事も結構読んで貰えたようでうれしい。

上位50記事の合計閲覧数は3,759、1記事平均75view。1PV当たりの収入は0.18円くらいなので1記事13円の収入……トップページの閲覧が一番多いとはいえ……赤字ブログ過ぎる ^^) _旦~~
しかし物販もちょこちょこ売れていますし、本ブログ発端で始まった読書が目に見えるとやはり嬉しい。文庫本以外にもブログを経由して他のものをAmazonや楽天で買ってもらっても私にお小遣いが入っているので、拍手ともどもそちらもありがたいことです。

皆様の読書生活がより良く、
何より私の読書生活がより良く、年々楽しく豊かに発展的になりますように。
来年も楽しく周年記事が書けるように、日々楽しみます。
いつもお読みいただきありがとうございます。

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