基本的にレビューブログは作品の知名度の影響が大きく、訪問者が観たり聞いたことがある作品の記事を読んでくれる。更新後時間が経つとページの閲覧数は減り、その後読まれる場合は検索からの訪問者によるものがほとんどなので、最初以降に伸びる数字が外部の需要とも思えそうだが、何記事かはかろうじて検索からも読まれていて、映画「オットーという男」も恵まれた作品に感じる。
本作『おばあちゃんのごめんねリスト』は、その原作者によるもので、スウェーデンのベストセラー作家にも数えられる著者の長編3作目となるそうだ。
映画「オットーという男」の原作『幸せなひとりぼっち』が、出版からどれだけ経って映画化されて世界的に読まれたのかはわからないが、世界的に売れてからの作品執筆や上梓の精神は並大抵ではないと思うので、本作の巻末にある作品リストを見ると、デビュー作『しあわせの~』の次はノンフィクションを書いており(未翻訳)、どういう作家であるかということは伺い知れづらいものの、処女作でヒットした作家の身の振り方や作風の育て方の難しさを考えれば、フィクション二作目の本作も難しかったのだろうなとは思う。
結果的に、本格的な作品というよりは、ある意味で自身のヒット作の後の肩の力が抜けた作品、という感じがしたし、ハリーポッターを代表とする過去のヒット作品や愛すべき作品の要素を散りばめたオマージュ作品として記憶できそうだ。
もうすぐ八歳になるエルサは、七十七歳のおばあちゃんが大好きだ。規律のママに対して混沌のおばあちゃん、そして”変わった子”だから学校で追いかけまわされていじめられるエルサにとっておばあちゃんはスーパースターだった。エルサはある日おばあちゃんとママの話を立ち聞きする。託された手紙と宝探し。おばあちゃんの所有する賃貸物件には持ち主とエルサやママのほかにも何組かの家族が住んでおり、ある階にはモンスター、ある階には口うるさいおばさん、ある階にはいつもクッキーを焼いているおばさんといつもコーヒーを飲んでいるおじさん夫婦などが住んでおり、おばあちゃんのごめんねリストを辿るうちに見えてくる、孫娘の視点で語られる三代の母子の物語。
本作は途中まで、7歳の孫、30代の娘、77歳の祖母、のテーマモチーフなのかと思わせ、どの時代をも経験し、想像可能なので、感情移入して読み進められる序盤が、まず良かった。守ってやりたい娘の大事な子供であり我が孫の可愛らしいさ、大好きなおばあちゃんの尊さが身に染みてくる孫娘、とんでもない母親に苦労しながら子育てする女親の視点。どれもが想像できるし、どれもの視点を獲得するからこそ全世代が共感できる家族と生死のメインテーマかと思いきや、読み終わると結構軽薄な、ハリポタオマージュ作品かつ、同じスウェーデン作家で『長くつ下のピッピ』で有名なアストリッド・リンドグレーンの『はるかな国の兄弟』オマージュでもあるようだ。中途半端な児童ファンタジー要素を織り込む部分を愉しめるかどうかが、本作のリーディングテーマで魅力だったように思うし、私はその部分を冗長に感じてしまった。
孫と祖母の間では”ミアマス”という架空の国の物語が繰り広げられており、想像の世界で祖母が教えてくれた物語を信じる孫は、その視点が現実にリンクしているのだとの確信を得て宝探しを進めていくため、読者にはその架空の国についての説明が逐一挟まれるのだが、ある意味で現実と虚構のないまぜとページの割き方が結構あるので、『ナルニア国物語』よろしく現実と虚構の配分やコントラストを楽しめる読者は良いのだろうが(本作にもクローゼットが登場する)、あちらはファンタジー世界の魅力が基本なので、本作において現実的な親子三代の心情的なテーマを追える作品だと思った私はまず肩透かしを食らうし、やはりそこまでファンタジックな影やドラゴンとの戦いなどと言われても(このあたりはル・グウィン『ゲド戦記』)、現実現代を生きる大人からするとこの楽しみ方は結構難しいのではないかなと感じる。
その架空の物語はおばあちゃんが作者なだけあって、実際にエルサが体験する現実の物語にもそこかしこにリンクしていくのだが、そこも別に上手いとも思わないし、現実的な臨場感を持つというよりかは、ハリーポッターの寮のマフラーとかハグリッドみたいな友人、大きな犬、寮生活みたいな各階の住人との距離感等、オマージュなだけな気がした。
それらファンタジー作品と共に、スパイダーマンやX-メン等の映画ヒーローについても多少言及があるが、そちらは、おばあちゃんというスーパースターへの足掛かりに過ぎない感じで終わるが、母子の台詞の掛け合いなどの意味では魅力を作っている側面もあるので、そちらの方が上手かったように感じた。
現代の子供達にとっては、大ヒットした児童文学ファンタジーやハリウッドのアクションヒーロー映画がスタンダードで良質な文学だ、とするのは、さまざまな児童文学と共にオマージュに散らすバランス感覚も良いと思う。
シングルマザーや再婚、義理の姉弟や不倫などといった家族や家庭のテーマもあり現代的ではあるが、そこまで描かれず、障害児、退役軍人のPTSDやそもそもの精神性、いじめ、個性等のテーマもあるが、どれもこれも描けているようで中途半端で、どれと言って強烈な印象にはなっておらず、全体的に破綻はしていないけれど強烈な印象も魅力もない感じが勿体ない。
その中で、孫からおばあちゃんへの愛おしさ、絶対に味方になってくれる存在の強さ、必ず残して死ななければならない祖母としての気持ちや、必ずお前の代わりに守り抜く娘への思い、等の切実な親子三代の気持ちの方が輝いて見えたし、そちらの肉付けと、そうした孫や娘に対した気持ちに育つに至ったおばあちゃんの半生は、もう少し描かれて然るべきだったとも思う。
本作は視点人物を七歳の孫側に設定してあるために文章も平坦で読みやすく、それらおばあちゃんのメインテーマを探し求める部分がリーダビリティだったはずだし、それが祖母が孫に残した”宝探し”という創作性もせっかく用意してある上に、それを進む間に無関係に思えた住民たちの過去が次第に暴かれるにしたがって一致団結していき、それら家族を結んで築き上げてきたおばあちゃんの気持ちも温かいのに、どうしてもおばあちゃんのごめんねのモチーフが弱いし、つまりそれは彼女の人生の描き上げが弱い。
戦地や災害時における孤児や別れや精神性について、おばあちゃんの半生はドラマチックだが、題材テーマほど描かれないので厚みは無いし、それは筆力と創作性の問題だとも思うが、どう考えても本作で一番描かれて魅力的だったであろうモチーフはおばあちゃんだったはずだ。
特に中核になるはずだった娘、視点人物である孫の母親であり、おばあちゃんの娘である人物との物語の描かれ方が弱く、中核に据えられていないからだし、テーマを微妙な児童ファンタジー部分に割きすぎた気がする。娘視点からの物語プロットとテーマの踏襲の為には作為性だったと思が、本質的には孫視点である時点ですでに児童文学感はあるので、その補足や広がりよりも、もっとページを書いて描かれて然るべき効果的な部分があった、それが母親と祖母の物語それ自体だったと思う。
母親が自分の仕事を優先して世界を飛び回り、危険な各地で他の子供を助けて回ることが、家に残され他人に育てられた実子にとっての謝罪の対象になるのだから、母親業というものは本当に難儀なものだと思う。そしてそのようなテーマは、共働きが増えて専業主婦が減った時代のテーマとして現代的であるし、その娘視点、そのさらに娘視点を含めた、親子三代の視点テーマは、物凄く読みがいがあると思うし、需要もあると思う。
ただ本作は創作性について、オマージュは面白ければよいと明文化されていたり、ハリーポッターやスパイダーマンやX-メンを”良質な文学”としてこよなく愛する七歳の孫視点を借りて行われた一幕なので、その限界値なのかなと思えば、少し寂しくも仕方ないかという気もする。
題材やテーマは揃っていたし、孫に残した自分の謝罪リストという素直な生涯を紐解く舞台を用意してあるだけに、なぜそちらに行かないのかと謎ばかりではあるが、作者はおそらくそうした精神性のテーマ作品ではなく、様々な有名作品のオマージュつぎはぎ作品を肩の力を抜いて描きたかっただけだから、こういう仕上がりになったのだろうと解釈した。
ある人物が意外なキーパーソンとして中盤以降に急に立体化し、実は続編化もされていると解説にて明かされているが、なるほど彼女のラストシーンは爽快で、作者が愛すべき人物だったのだなと思ったし、後述においてオマージュ作品の一部だったことも知り、この張り巡らしと徹底を知った時は愛らしさに微笑ましくもなった。
おそらく作品としては未読ではあるが『幸せななひとりぼっち』の方が上質で本質。あちらは夫婦と生死の話、そして横並びの隣人界隈の話、とモチーフに被りはあるものの、それだけに得意な素材だったのだと感じる。本作も描き上げるに難しい要素や素材をここまで集めてくるだけで創作的なセンスは感じるので、あとはその料理や作り上げの部分が勿体がなかったと思うばかりで、個人的には初めての親友とその顛末の部分も若干の蛇足であったように感じるので、これはもう単純に子供時代をそれだけとして楽しむには、私のフィクション観と想定読者層と異なるだけなような気もしてきた。
著者は自国でも世界でも売れて読まれているらしいし、一作に終わらずにそうして書き続けて作り続ける作家がいるのは素晴らしいこと。
余談だが、引用のためにアストリッド・リンドグレーン調べていると、記事更新はしていないが観た映画『ロッタちゃん』シリーズの原作者であることも判明し、著作列に『ブリッド-マリはただいま幸せ』を見つけてしまう。なんだ、本作は完全にオマージュではないか。そこまで知ると微笑ましくなるし、この作品を知っている読者は本作を読み始めてすぐに彼女がキーパーソンかもしれないと分かる作りになっているのだろうか? どんな作品なのか読んでみたくなったし、オマージュ作品はこうしてインスパイアされた愛すべき作品に自分の読者の魅力や視野が広がる楽しみもあるのか、愛だな、と感じた。書評レビューもこのように書きたい。
後日、関連書籍として読みました↑
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