(2021)
日本のアニメ文化がオタク要素だとしても、人と金が集まる映画産業においては商業的な成功が求められるため、オタク感覚やニッチ視点だけでは勝てないようになっているし、私は商業的成功を正義だと思う節があるし、大衆の胸を掴む普遍的なテーマ設定とその威力への評価も同様だ。
映画の都”ニャリウッド”にある会社で天才映画プロデューサーをしているポンポさんは、自分のアシスタントとして働く根暗な映画オタクのジーンを監督、地味な女優の卵ナタリーを主演女優に、それぞれ抜擢して、ある大作映画の製作を始める。撮影は無事終了、編集作業に追われたジーンは過労により倒れるが、不屈にも立ち上がり作業を続行させ、重要なシーンが足りないと追加撮影を希望する。ポンポさんは、それは脚本を担当した自分に対する発言になるし、一度解散したスタッフやキャストにも頭を下げて再招集を求める行為であり、製作費は膨れ上がり、期日を過ぎればスポンサーからの合意も取れずに離れてしまうかもしれない、と言うが、それでもジーンは譲れない。
創作に没頭する才能として、人生で他に打ち込めるものがないから、とした上にさらに映画編集作業において無駄をカットしていく自分と作品主人公を重ね、無駄もカットして研ぎ澄まされた人生を、と初監督作品に尽くすジーンは続ける。
伏線として、完成度を目指すべき現代の娯楽についての取捨選択と観客の集中度に関しての話を挟みつつ、それぴったりで終わる、というラストピークは良い。
アニメーション作品としてのキャラクターの魅力は勿論、映画製作における裏方の仕事から、銀行やスポンサー契約、クラウドファンティングなど現代的な要素も膨らませつつ、けれどもものつくりや投資は明るさや希望であるべき、とした創出の考え方は普遍的な希望でありポジティブ。
ただ、その完成度に比べると、主題やテーマメッセージの普遍性が弱いので、胸に来るものや感動があるかというとそこが微妙か。
>幸福は創造の敵。満たされた彼らにクリエイターとしての素質なし。
という極論は、ちょっとオタクすぎる。
一般化する作品には一般的な感覚が必要であるし、大衆性は勿論、何を芸術性や追及とその極致とするかで異なるとも思うが、特に映画は大多数の人の胸を掴むべく大多数で組んだチームで戦うので、資金集めも人徳も必要であるし、それをまとめる立場のポンポさんだからこそ、もう少し広い視野の価値観のもとに生きていないと現実的なリアリティーには欠けるかなと思ってしまった。
本来であるなら、現在はB級映画をヒットさせ続ける天才としてポンポさんを象徴と指揮官に据え、チームやスポンサーと資金集めのエピソードを中心に置くなら、商業的成功=大衆の心を掴む方向のテーマ設定を置く方が作品性はシンプルに特化されるが、本作は逆にニッチコアなオタクの創作と孤独を至高とするテーマ設定をしており、大多数に響く情感で攻めきれていない。そして複雑化させた上でその混在に魅力を生み出すところまでは作り上げられなかった、という印象。
原作はpixiv漫画、映像シリーズ化されているようなので、その過程で変化が生まれていれば化けてるはず。「マンガ大賞2018」で10位、「このマンガがすごい! 2018 オトコ編」で17位を受賞し注目を集め、映画化。
原作にはなかった元陽キャの銀行マンと追加撮影という要素を除けば、よりニッチで孤独な才能の世界の話になったと思うので、これでも一応原作から映像化に際して世界観やテーマ性の拡大が図られている様子から考えると、この原作題材ではこれが限界だったのかなと思う。
加えられた2点により、大衆性も増したし、テーマ性としてはこちらの方が正解。しかしおそらく原作が有する主題にオタク的な要素が強すぎるので、大衆娯楽や商業と完成度の映画モチーフと創作や追求と人生の孤独というテーマの相性をハメきられなかったのかなと。
故にラストシーンに究極的に大衆的な成功でまばゆい受賞を一気に持ってくるところに多少の違和感は感じるが、最後の90分の謎、そして本作も90分で鑑賞できるので、場面転換やプロット経過はサクサクと進み、けれど画面印象も強く、創作的な趣向の魅力もある。
ただメジャー的な成功や作品が大多数に観られるためにはもう少しあっても良いし、単純に知名度や認知度はシリーズ1作目には乏しく、本作が与えたインパクトで2作目も観させる掴みに届いたか、は微妙。
安心して観られる一定楽しいアニメ映画となっているし、クリエイターや創作に携わる人間は面白く観られる部分も多いだろうと思うが、十代中盤~二十代前半のそうしたターゲット層以外にも響く何かがあるか、と言われると難しいので、そのコアのさらにニッチを目指した作品が、いかにエンターテイメントとしてのインパクトと完成度を創り出し、観客の胸に残せるのか。
やはりこれは大きな課題で永遠のテーマだが、ゆえに虚構創作は無限で際限がない威力と魅力に映る。その可能性を感じた、改めて私は創作技術やその完成度が好きなのだと実感した一作。
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