(2019)
本作には多くの悲劇的な場面が存在するが、緊張時に笑いを堪えられない障害を持つ主人公は、憧れのコメディアン(ロバート・デ・ニーロ)に彼の番組に招待された場面でも「この人生は喜劇だ」と笑い続ける。
その感情は間違いなく悲劇的なのに笑い続け、喜劇だと言う口上と横顔の演技は必見だ。
彼は作中何度も泣きたかったし、泣いているし、きっと画面の外でも、心の中でも泣いている。しかしそれでも生きていかなければならないし、泣いてなどいない平気な振りをし続けて、ピエロも演じればジョーカーも演じなければならない。この場合の人が生きる自負の確立はひどく悲しい。
格差が凄い街の現状はアメリカの一部ではないことなのだろうし、当時のアメリカの感覚は拾い切れないが、ある男の複雑な悲劇と、現実的な社会の純粋な悲劇が共に膨張する。
「この人生以上に価値のある死を望む」
障害、能力、学力、弱親、毒親、ルックス。これは全弱者男性の悲哀と慟哭だと思って観ていると、本作は個人ではなく社会の問題であり、下部にいる多勢が共感してしまえば暴動から革命にもなる資本主義的現代社会が進んだ結果の、崩壊や決壊前の悲壮と緊張なのだと分かってくる。
ボンネットの上に寝かされたアーサーが目を覚ましてからの光景は、あの人の復活をどうしても思わせるし、その狂気的な歓喜の中で踊っている人は誰で、踊る気持ちは何なのか。
そしてのその熱狂や盲信は現実になる。
両親を殺されて立ち尽くす子供は確実に復讐者への道を歩むのだろうと思って調べると、本作は「バッドマン」のスピンオフであることを知り、たかがアメコミのはずのテーマ性の強さに驚いた。しかしジョーカーの原点を描いた内容ではあるが、創作的な関連は存在せず、どのジョーカーの過去でもない、と知り安心した。こんなメッセージ性やテーマ性の強さを子供に打ち込み、商業的な大衆消費で行ってしまうなどということがあり得るのか、と腰を抜かす所だった。
つまり本作はテーマ消化のためのモチーフ探しであり、創作されるべきテーマの強さがある。
舞台は1981年のゴッサム・シティ。失業者や犯罪者が溢れ、貧富の差は益々大きくなり、政治の刷新も期待される。そんな街に住むアーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は、派遣登録ピエロとして母親と暮らしていた。父親の姿はない。
フレックは笑い出してしまう持病のためカウンセリングを受け、精神安定剤を拠り所にしていたが、市の福祉が財政難により資金を打ち切り、治療の機会もやがて途絶える。コメディアンの道を目指しながらピエロとして働いていたが、あることからその職場も解雇され、自身の出生の秘密や母親や運命を恨んでみたりしながら、ある日、彼はある引き金を引いてしまう。
「仮面をつけなければ人殺しもできない卑怯者。
自分より恵まれた人を妬んでる、でも素顔を晒すのは怖い。
彼らのような落伍者は、ただのピエロに過ぎない」
公的な立場の人間の言論や、強い主張の言葉が人の心をえぐる冷たさを持つ際の客観性について、私たち他者は考えるべきであり、人の心身の均衡を崩すのは、例えばそういう発言ひとつであり、恨まれ標的にされる理由にもなると、侮ってはならない。
暴力は粗野に過ぎないが、起きてしまえばそれは圧倒的に現実だ。
私の一方的な想像上のアメコミ創作の文化イメージが好きではないので、バッドマンもスーパーマンもよくわからず、調べると、主人公=バッドマンはゴッサムシティの億万長者で慈善家、幼い頃両親を殺された恐怖と葛藤しながらも宿敵を追っている、という設定で、この殺した側を描いたコンセプトモチーフが今回なのだな、ということまでは理解した。
しかし本作は現実におけるアメリカや、格差や分断の社会を持つ各国の不満と悲劇の爆発を描いている人類社会的なテーマ作品に思う。
福祉は打ち切られ、自己責任は蔓延し、政治は人気投票であり、社会はまるで完治せず、価値は目まぐるしく入れ替わり判断され、足蹴にされて笑われる者は基本的に入れ替わりゲームに参加することはできない。
ある一人の男が引いた引き金が、社会的な暴動の引き金に代わる。
弱者男性の自暴自棄は怖い、と同様に、貧乏人の暴動は怖い、は、何も失うものはないから、世界や他人を壊してしまえ、がある。
生きているだけでも人は迷惑だけはかけられる。
そして奇跡まで起こせる所までが人間だ。
少し残念なのは、メインビジュアルの赤の一張羅は格好良すぎており、商業が上手いなと思うが、鑑賞イメージとは異なるのでその点は注意か。本作は華のあるしなやかな悪役の誕生秘話などでは決してない、弱く弱く弱い、弱者の物語だ。そして多くの私たちの姿だ。
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「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」ジョーカーが翻弄したおかげでぶっこわれた女性の物語で、エンタメとアクションに振っていて楽しい作品。
アメコミ作品に興味がなかった私が珍しく興味深く鑑賞しているパラレルワールド。
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