G-40MCWJEVZR 親ガチャと勝つまで賭ける息子投資『銀河鉄道の父』直木賞はその作家のつまらない作品にあげるものなのか?門井慶喜の場合① - 歴代
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親ガチャと勝つまで賭ける息子投資『銀河鉄道の父』直木賞はその作家のつまらない作品にあげるものなのか?門井慶喜の場合①

文芸作品

 直木賞はおそらく作家単位に与える賞なので、必ずしも受賞作が面白いわけではない。それどころかつまらない気がする私は、歴代受賞作家の著作列の中から受賞作以上に面白い作品を探し出して作家の真価を探る企画、第二回。
 (発端は前回の窪美澄↓
  古くは2012年受賞の辻村深月)

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直木賞はその作家のつまらない作品にあげるものなのか?①歴代受賞作を読んでみよう、の巻、はじまるよ〜『ふがいない僕は空を見た』の窪美澄の場合
エドヴィージ・ダンティカで助産師モチーフが不発だったので、主人公の母親が助産院を開業している『ふがいない僕は空を見た』(2010)を思い出し、検索すると著者が直木賞作家になっていたので受賞作を読んだ。びっくりするくらいつまらなかったので、選...

直木賞はその作家のつまらない作品にあげるものなのか?2作家目は門井慶喜

第158回『銀河鉄道の父』(2017)

 岩手県花巻市で質屋を営む政次郎には4人の子供がいて、長男賢治と長女トシの扱いに手を焼いていた。二人とも小学校を全教科「甲」で卒業する優秀さではあったが、家業は学問の必要のない質屋。女では話にならないし、長男賢治は対人商才があると言えず、石ころを探して野山を駆け回り、多くは農民の貧困を飯種にしている質屋の息子であるのに農業学校に入って農民のために働きたいが仕送りはし続けてくれ、というようなことを言い出す。賢治と仲が良く2歳年下の妹トシは女なのにボケた祖父を説き伏せる手紙を送りつける文才や父親相手に議論したがる舌鋒の鋭さ、それを表す目つき口元をしており、嫁の貰い手がないのではないかと甚だ心配。下の3人の子供たちは大人しいがつまりは大家族、大黒柱としていつまで働き、いつまで養い続ければいいのかと思案しながらも、上の厄介な子供たちの願いも闘病も最大限の資金と労力で尽くした父親の姿を描く長編。
 宮沢賢治没後90年となる2023年5月5日公開の映画化の原作にもなっているよう。

 まずは明治という時代、家業がある男児や長男の行く末、学問の位置づけ、男児と女児の扱い、そうした二人の兄妹の関係は濃密で、兄より文才を認められる妹は兄の作り話を喜んで求め、自分の可能性を唯一励ましてけれる妹に対してなぜか賢治が憧憬の感じすらあり、幼い頃から仲が良く互いの夢や長所を認め合う兄妹のモチーフ性は本編においては弱く、多くは視点人物である父と長男賢治との関連にページが割かれている。
 質屋の仕事、それで家族を食わせてきた大黒柱の価値観、その家業を継ぐからこそ嘱望される長男、そこに描かれる賢治像は、農夫の貧困や事故で稼ぐ質屋に生まれ、祖父が築き父が稼いだ金で飯を食い着物を身に着け、金を稼ぎ己や家族を養う現実から逃げる学問へと進み、金持ちの息子という特権に甘えたままの高等遊民的な生活と気質、が前半。
 特に、質屋の利用客は途端に金が要りようになった農民が多い岩手は、土性や農業が弱いらしく、それを理由に農業を助ける農業専門学校に進んだこと、その交差のモチーフ性は悪くなかったし、そのあたりからの父と子の内的な闘争としての反抗期めいた部分が表面化していくのは面白かった。
 個人的な印象としての宮沢賢治は、土くさく、戦時下で祭り上げられた『雨ニモ負ケズ』が使われた創作のプロパガンダ的負の側面と、土着性と夢想の不一致、謎の宗教くささや鉱物や星座などのモチーフの何から何まで好きではない。ただある意味で、その農民や土着性や宗教臭さまでもが父親に対抗して自身がうちに構築したアイデンティティであるという見方をするなら、この優しく尽くした父親を主人公とした本作はむしろアンチテーゼ的であり、そこの父の悲哀的要素は本作でも見てとることが出来、材料は集めてあるが創作的な料理や表現が成されている域にまでは届かず、そこが一種の情動の不足やエンタメ的不充足に繋がっているのかなと。
 童話や詩は教科書にも掲載しやすいし、おそらくこんにち的にも宮沢賢治に触れない日本人もおらず、文学研究も盛んならその生涯考察や文献も多いだろうし、それらにあたるだけでも情報量や、簡単に見える作品の奥にある禍々しさみたいなものを個人的に感じ、逆にそれほどのモチーフを扱った本作が、ひとえには普遍的な金持ち坊ちゃんを養い続けた父親像にしか落着していない爽やかさは読み応えという意味では逸しており、苦悩の濃さも比較的薄い、ある意味で本当に爽やか。

 ただ普遍的な人間的要素、まろやかに皆が読める家族小説や子育て小説としての風情は直木賞的なのかもしれないし、良心的な父親によるこの甘やかしはどの時代にもあったのであろうとも思えるし、著名な作家宮沢賢治もその一例に過ぎないと落とし込むところはモチーフを特別にしない意味で結構面白いし、それが没後記念映画の原作に選ばれるとなると現代における宮沢賢治像はどうなるのかとも思える。

 宮沢賢治の場合は、その夢想やスケールの感じも坊ちゃんだし、食うための仕事に尽くさなくてよく、その心配すらなく安心して勉強し放蕩できたことが素養に与えた部分は大きかったし、子供たちは安心して育ち、病気をしても治療を施され、何も為せずして死んでいく者もいる中で自分に尽くして生きることができた。これは現代においても勉学や教養は、会社組織や生活のためのお金の為に尽くす心身や時間があればあるほど難しく、自身の豊かさや強さ高さを積み上げていく夢も思考もなくなる
 私自身も、働きながら何かを勉強したり夢中に没頭することは難しく、多くの素養を育んだ学生時代や親に守られて安心して暮らしていたし、社会に出てからもこの自分になる前に尽くしてもらった両親への恩の強さはみな同様に持つ普遍的な思いであるし、逆に親や環境に恵まれなかったたぐいの人間が持つ劣等感や不平等感は大きなテーマであるだろう。それほどに、どんな教育や幼少期環境を与えてもらえ、生きるための仕事に時間と精神を尽くさなくても良いかは、個人の人格形成や能力の発揮の意味で大きく、自身の努力や誠意で勝ち取った多くの成果も根本を辿れば親が与えた境遇や感性を抜きにしては語ることはできない、正負両面からして親ガチャの要素は今後も普遍的な要素として存在する。私も散々守ってもらったし、どの要素も今の自分を成立させる経験の一つだったと感じる。
(このあたりは過去記事カズオ・イシグロの『クララとお日さま』でも科学性が子供や親に齎せ発展性やそのテーマ性を描く面が思い出される)

「クララとお日さま」カズオ・イシグロ
 人工親友であるクララは14歳の少女ジョジーに買われて、彼女のAF(artificial friend?)になってからの大きく小さな冒険と、ジョジーの長く短い10代を描いた作品。  ノーベル文学賞受賞作家であり、「わたしを離さないで」の作者

 普遍的に自分の子どもに尽くしてあげたい親心、現代的に言えばある意味で本作は親ガチャの成功例、それによって尽くされた子どもが成していけること、尽くしていけること、その人生や世界。
 ただその優しくも鋭くもあるテーマ性に対して、本作はその作家性から必要以上の表現や筆致をしていないし、著者2冊目を読んでいる現時点からすれば、著者の主眼は歴史の中におけるモチーフのさばき方で、歴史小説は基本的に創作の前段階の注力や時間が多いから、創作意欲盛んな作家は一作や一文を手早くさばいていく趣向がないと著作列もなかなか進まないのかもしれず、この作家のある意味での軽さや爽やかな書き方は膨大な歴史と次々あるモチーフへの急ぎが現れたものとも思える。
 作り込みの意味では弱いし、歴史小説的な色気もない所が作家が個人的にモチーフやテーマのどこに創作性を見出して憧憬を感じたのか、その熱さみたいなものは弱いなとは思う。それが文芸的な魅力にもかかわってくるし、読者に与える者も同様だとは思うが、ある意味で虚構創作としての完成度や密度の意味で弱いのは欠点ではあるがエンタメジャンルでもあるし、選ぶモチーフセンスからして威力的に書けるとは思うが、手際には問題がないし、書かない所にこの作家の特性が見える気もする。



 そのようにして裕福な親に手塩にかけて育てられた作品的な賢治の文学面での本作を見ると、妹の死を境に真面目に創作に打ち込みだす。家族を養える男児になれるわけでもない、大事な妹すらなすすべもなく失う、病に呪われた兄妹であるぼくらはどちらももう長くは生きられない、精神的な追い詰められ方は結構虚構性がある。なかなかに覚悟が決まる世界観。
 小学校のころの文芸作品からの感銘だとか、同じ中学校卒業生の石川啄木への賢治在学時の心酔、農業学校時代での同人誌での活動等には進行時はほぼ触れない構成で進む本作は、中盤以降急に文芸活動が現れ、文芸一色な宮沢賢治像を覆していて、そこには是非が問われる要素には思うが個人的には良し。
 石集めと作り話し上手、飴製工場や人造宝石の計画、宗教的に父とは違う流派に傾倒し質屋の得意客である農民の味方をしてやり、自身の畑を耕してレコード会催す。子供の頃から文芸一筋なわけもなく実際の所はおぼっちゃまの夢風呂敷的な計画の紆余曲折の末に、何もない自分で辿り着いた文芸への道にきらきら輝く要素は意外とあったのだと、自他の目からも認めてあげられるような発展性はある。
 唯一虚構性として好きな『銀河鉄道の夜』の主人公ジョバンニは賢治自身、友人カンパネルラは農業学校時代の後輩兼恋人の女性もしくは妹トシのどちらかでもあるとされる専門家の考察があるようだが、私はその2つの感慨を混ぜ合わせたものであるくらいに妹トシの影響が強かったと思っていて、全力で兄を慕う妹、いくら学問や文章の才能があろうと家業を継ぐのは兄で男である自分であり父親の認知も妹はめでたくないこと、東京での独り暮らしも一人でまめまめしく行う勤勉さ、であるのに10も若い24歳で夭折してしまった妹、その喪失の悲しみと愛おしさ、断筆期間の長さや、妹を思って書かれたと言われる文書の多さからして、結構異常だし、そもそも押し入れに顔を入れて慟哭したという逸話もなかなかのものがあるから、基本的には宮沢賢治を語るうえで一番に素材になるのは妹トシのイメージがあったし、本作でも結局のところ創作活動に打ち込むきっかけは、病床にある妹に向けて書く童話や、妹を亡くしてから尽くす非現実的な仕事と現実的な仕事との時代から。

 生前に文筆で稼いだのは雑誌『愛国婦人』への寄稿文に対する2回分の原稿料のみであり、存命中の出版物2冊の詩集『心象スケッチ 修羅と春』童話短篇集『注文の多い料理店』はどちらも自費出版であり、生前は認められなかった地方生まれの不遇の作家である、というのもゴッホ的な要素であるし、そこから家族や親類の助力や他有力者の覚えがあったことから没後急速に普及する様も劇的で、作品や自身が語るのではなく脚光が他力にあるところなども鮮やか。
 『春と修羅』に隠された妹の死と理想の遺言、そこに隠された作家の業と隠蔽、教師の経験が活かされた高度を難しいまま語らず子どもにもわかるように語る作風、などは実際や史実がどうであるかは置いておいても、『雨ニモ負ケズ』『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』の導入も、セロ弾きのゴーシュを思わせる夜会も、多くちりばめられた作品名やモチーフにも愛を感じるし、その登場のさせ方も自然で非常に上手い。
 熱心な文芸批評が、父親の関心と愛であるところの熟読による説得力や自然性であるように書かれているのも上手い。それら作家モチーフに対するアプローチと登場や表記のさせ方が自然、これは結構この作家の創作性だなと感じる。

 政次郎は商才にも戦時下における投資感覚も優れていたとの逸話として描かれもするが、長男に賭けた結果、これほどまでに歴史的に大成させたのだから、実質的には、子育て小説であったし、移り変わる時代の中で家業か学業のどちらを子に進ませるかの判断、どの株に投資するかの判断、それにしても我が子は可愛い、けれど長男と長女に先立たれる父親の小説、とまあまあのまあ示唆がある、にまとめられているところに本作の優しさがある。
 飯膳を並べた人数が自分が養い守る人数、という虚構性は良かったし、大黒柱的な強さの側面と、彼らの願いを聞いたり期待したりする優しい側面が交錯し、最終的な場面ではそこから未来へ繋がる父親像や家庭像を描いて見せるのも良かった。

 そうした新時代に生きる長男や長女ををどのように育てたのかが語られる側面としての時代説明として、戊辰戦争や尋常小学校、日露戦争や国全員で戦う価値観等、明治的な要素が散りばめられるから、童話的平坦さが薄まる社会性の取り入れ方と、時代は十年前の日露戦争を背中に第一次世界大戦を迎えたが、日本の領土では戦争しない為海外へ送る軍事整備関連で工業が盛んになったり、学問や妹をめぐる問題としての職業婦人や女性の社会進出的な側面も少しだけ挟まれる。だがこの作家はさらりとしているので明治的な戦争のそれと同様、大正的なそれも一文二文の雰囲気に終わる。
 彼らが生きたその時代とはどんなに価値観や遍歴の多い時期だったかという部分がテーマ的も社会性にもなれたが、あくまで一個の家庭の中での思案に留まっているところがこの作品の視座であり、つまりはこの作品の主題は、普遍的な子育てと、それをしたうえで子供二人に先立たれた男の悲しみや喜びに終始していて、こんにち的ではない家父長制が生きつつも、それとミスマッチな自分に思案する一人の父性によりそう。

受賞作は何が評価されたのか? 選評を読む

桐野夏生「優れた父性小説であると同時に、賢治の創作の苦しみも伝わる、感動的な作品となった。」
北方謙三「確実な力を感じた。宮沢賢治は、手強い題材であっただろう。父の視点から描くことによって、賢治像だけでなく、母親や弟妹の姿まで、くっきりと浮かびあがってきた。」「小説として、世界の拡がりを持った。それは普遍を獲得している、ということであろう。私は、この作品に丸をつけた。」
東野圭吾「この作家はミステリ出身でありながら、視点に対するこだわりが全くないのだが、それも独特の味になっている。受賞は予想通りだが、○にしなかったのは、オリジナリティがどこにあるのか、私にはわからなかったからだ。」
宮城谷昌光「宮澤賢治という個性と作者の個性が融合する、その点が少々ずれているとみた。資料なんぞ放擲して、門井氏独自の世界のなかに宮澤賢治を引き込んでもらいたかった。この小説は、行儀がよすぎる。」

 そんなことより東野圭吾が審査員にいた!コメント面白いし、選評より先に私は以下の著者略歴から見たのだけど、そこに触れていてさすがだなと思ったし、宮城谷昌光さんの辛口も良い!
 

著者略歴、受賞作より気になる作品、伺える作風

 1971年生まれ。大学卒業後、1994年から2001年まで宇都宮市にキャンパスのある帝京大学理工学部で職員として勤務。文学賞への初応募は2000年の創元推理短編賞。

2000年「天才たちの値段」オール讀物推理小説新人賞候補
2003年 「キッドナッパーズ」オール讀物推理小説新人賞受賞
2014年 『シュンスケ!』歴史時代作家クラブ賞候補
2015年 『東京帝大叡古教授』直木三十五賞候補①
2016年 『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』日本推理作家協会賞受賞
2016年 『家康、江戸を建てる』回直木三十五賞候補②
    『ゆけ、おりょう』本屋が選ぶ時代小説大賞候補
2018年『銀河鉄道の父』第158回直木三十五賞受賞③
 
 ミステリ作家出身であることも驚いたが、その後歴史ジャンルへ転身して、3回目で直木賞受賞、これはもうほとんどストレートな受賞と言っていいし、二冊目に読んでいる『家康、江戸を建てる』を挟んで本作にて受賞、というのもうまいなと。現代はミステリ作家が食べていける時代、けれどまだ箔の天井は若干感じる時代に、直木賞も取り易そうだしせめても売れる可能性があるからの歴史小説の選択であるなら、物凄く理性的で商業的な感覚と、それで実際に結果を出している、その小器用さが素晴らしい!現代的なエンタメ作家はそう来なくっちゃ位の軽やかさと器用さで驚いたし、歴史小説的な色気が不足している理由も納得。ミステリ作品の虚構性はどうなんだろうか。

 歴史小説だけで見ると、2013年『シュンスケ!』が最初だとすると、歴史小説を書き始めて2年で直木賞候補、5年で受賞。この素早さ。
(2013)『シュンスケ!』伊藤博文で初の歴史小説
(2013)『かまさん』  榎本武揚
(2015)『新選組颯爽録』 新選組の隊士の短編集
(2016)『家康、江戸を建てる』徳川家康による江戸開府をめぐる連作短編集
(2016)『ゆけ、おりょう』坂本龍馬の妻おりょう
    『屋根をかける人』 建築家のウィリアム・メレル・ヴォーリズ
(2017)『銀河鉄道の父』宮沢賢治を父
(2018)『新選組の料理人』
(2019)『自由は死せず』板垣退助
(2020)『東京、はじまる』建築家の辰野金吾
(2020)『銀閣の人』足利義政
(2021)『なぜ秀吉は』豊臣秀吉の朝鮮出兵
(2021)『地中の星』早川徳次
    『ロミオとジュリエットと三人の魔女』シェイクスピア劇
(2022)『信長、鉄砲で君臨する』織田信長
     収録:鉄砲が伝わる/鉄砲で殺す/鉄砲で儲ける/鉄砲で建てる/鉄砲で死ぬ
    『江戸一新』老中松平信綱を主人公
(2023)『文豪、社長になる』文藝春秋の創業者・菊池寛
    『天災ものがたり』日本の大災害と防災の歴史の連作短編集

 『ゆけ、おりょう』は竜馬がゆく、『新選組颯爽録』は新撰組血風録、司馬遼太郎オマージュはチープだが興味はそそる。


受賞作悪くなし、期待と心配

 『銀河鉄道の父』にて父親の視点小説だからこそ、その熱心な興味から語り手による自然な文学批評に繋げたりするうまさ、時代を挟み込み幅を出す一文の効き目、器用さは結局俯瞰だし客観で、視座の高さと冷静さ。作風や略歴に感じるその上手さは、塗り固める愚直さに立ちどまる気がない冷静さとも評価できる。ただ効率は文芸ではないにしろ。
 ミステリと歴史というジャンル小説の二つを器用に突き進むが、全体が上手いとは思うが旨いとは感じず、この作家ならではの魅力がどこにあるのか、結局は創作や文芸は作者が感じた虚構創作的なロマンに他ならないし、歴史小説の色気的なことで言えば、司馬遼太郎の化け物じみた虚構性の強さは、ある意味で虚構性に見出す憧憬の強さを表し、書き尽くす作家的強さを感じさせる。

 今回は直木賞受賞作『銀河鉄道の父』(2017)、個人的に好きではない宮沢賢治モチーフだけど読後感は悪くなかったし、ミステリ出身の作家が歴史小説家に転身した割に2冊目読んだ『家康、江戸を建てる』(2016)も結構面白く、作風の把握も進んでいて、3冊目は『東京、はじまる』(2020)が楽しみ。次回はこの2作で著者②を予定。
 商業的あるいは計画的に創作できる作家、評価高いです。ただ気になるのが、商業的な成功や数字は私の範囲では掴めず、読書メーターの数字も芳しくない気もする。意欲的な作家性を感じるので、その器用さで文学賞ではなく商業的な結果をものにしてもらいたい。

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